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 最近、大人の間では、中高生のインターネット利用が問題になっているらしい。例えば、その一つとして槍玉に挙がっているのが「プロフ」。「激しく自己紹介しませんか!」と前置きの付いた「前略プロフィール」のことである。プライベートな情報を無防備にさらけ出していることへの危険性に、中高生は自覚がなさ過ぎるとのことだ。

 テレビでは、中高生のインターネットでの問題行動のいくつかを取り上げて、注意を促していた。インターネットにつながったPCはリビングなど大人の目の届くところに置くこと、フィルタリング・ソフトを利用すること、などなどだ。そして、男女のアナウンサーは、カメラの正面を見つめて姿勢を正し、「ご両親は、毅然とした態度で望みなさい!」といった感じで報道は終わった。テレビの前の僕と妻も背筋をのばした。

 でも、そんなこと、いまさら言われても……。僕の家にインターネットを初めて入れたのは、たぶん1994年だから、うちの娘は3歳のときから、インターネット環境の中で育っている。そのうえ、小学生のころには、無線LANにつながるノートPCまで与えてしまった。

 そういえば、近頃、部屋に閉じこもってインターネットばかりしているような気もするし、リビングにいるときでも、食事中でも、寝ているときでも、ケータイはいつも手のひらの中だ。いまさらPCはリビングで、ケータイはやめなさい、なんて言えない。

 とはいえ、そんな報道があると、親としては心配になる。妻は「ほーら、だれかが新し物好きだから、娘がこんな危険な目に遭うのよ!」と言わんばかりにこっちを見ている。父としての責任がある。かも。それに、仕事上の興味もあるので、さっそく、その晩、娘にプロフや中高生のインターネット事情を聞いてみることにした。

「おじさんたちの間ではSNS(Social Networking Service)がブームなのに、なんでSNSじゃないの?」と切り出してみた。答えは簡単。ミクシィは18歳未満お断りらしい。そういえば、僕がミクシィをやっているのをちょっと前に羨ましそうに見ていた。ちゃんとルールを守る中高生がそこにいた。

見られていない不安をネットが埋める?

 ホームページは「ホ・ム・ペ」、ゲストブックは「ゲ・ス・ブ」、パスワードは「パ・ス」、うそっぱちは「パ・チ」。掲示板などに書き込むことは「カラミ」と言って、悪い印象なのかと思ったら、カランでくれてありがとうなことらしい。言葉は多種多様で意味不明。イントネーションは「カ・ナ・リ」異なっている。そのうえ、早口だから理解するのが難しい。大学の講義と同じだ(笑)。

 こうした特殊な言い回しの数々は、うちの子が参加するコミュニティに固有のものなのか、はたまた、中高生の間ではだいたい共通しているものなのかは、わからない。けれども、なんとなくわかったのは、お互いに理解し合える友達同士が、相当に深いつながりを求めているらしいということだ。

 お互いのプロフィールどころか、日常生活のすべての出来事やそれに伴う感情のすべてを伝え合うことで、常に意識し合い、信頼関係がそこにあることを確認している。そのために特殊な言葉を使い「激しく自己紹介」し合うのだ。彼女たちは、見られたいのだ。そして、見られていない不安を抱えているのだ※1。SNSを喜んでいる大人たちも、縦社会が信頼を失いつつある今、見られていない不安を安心に変えてくれる友とのつながりを楽しんでいるのかもしれない。

 けれども、ネットワークがもたらすつながりは、個人と個人をあまりにも、急速に、深く、直接的につないでしまうことがある。友人とのあまりにも深すぎるつながりが失われたときの不安は、激しい怒りや憎しみを生むことがある。

 組織が安定して成長していたころは、上から監視され、管理されることが窮屈で、見られていることが僕たちの不安だった。だけど、その成長が終わり、高齢化や少子化が進んでみると、組織や地域、そして家庭での縦のつながりは、脆いものとなり、そこにいる若い世代への負担はあまりにも大きなものになってしまっていた。

 壊れ行く縦社会の中で、強くつながろうとする若者。そこでの信頼を憎悪に変えることなく、いつまでも続く関係を創り出すにはどうしたらよいのだろう。そして数少ない友に依存するだけでなく、もう少し身近な人々が支えあって安心して暮らし続けることのできる社会をつくるにはどうしたらよいのだろう。

「ドコ?なωで行き先言ωаなIでぃくの? (どこ? なんで行き先を言わないで行くの?)」ちょっと黙って出掛けたら、娘から僕のケータイにメールが入ってきた。娘と僕の関係は横のつながりになりつつあるらしい。

【注】

※1「見られていない不安」は、パーソナルな現代人が抱える精神的危機感において大きな位置を占めはじめているような気がします。この点についてご興味のある方は、ちょっと前になりますが、東浩紀、大澤真幸「自由を考える -9・11以降の現代思想」NHK出版、2003年5月 に納められた対談がおもしろいと思います。【本文に戻る】