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 芸能界では、大衆から名前を略して呼ばれるようになると人気はホンモノな
のだという。古くはエノケン(榎本健一)からシミキン(清水金一)、今なら
キムタク(木村拓哉)がその代表だろう。

 木村拓哉にちょっと面差しの似たヤクルトスワローズの五十嵐投手は「ヤク
ルトのキムタク」と呼ばれたりするが、「広島のキムタク」というのもいて、
これは顔が似てるわけではなく名前が1文字違いの「木村拓也」だからこう呼
ばれているのであって、球界というのはなかなか複雑なのだった。そうでもな
いか。
 このような略称は、「よく口にする」「全部言うには長すぎる」という2つ
の条件が揃うと発生する。
 たとえば、私が中学生の頃、バレーボール部は「バレー部」、バスケットボ
ール部は「バスケ部」と略して呼んでいた。さらに「バスケ部」を無理矢理訛
らせて「バスケべ」と言っていたあたり、いかにも昭和の中学生の言語センス
といえよう。平成の中学生たちも「お前さすがはバスケべだなあ」「おー、ス
ケベー」「やめろよー」とか言い合って、ゲラゲラ笑っているのだろうか。
 略語の宝庫といえばIT関係であろう。
 このITからして既に略語だ。正しくは「Information Technology」という。
長い。日本語にすると「情報技術」あるいは「情報通信技術」となるが、これ
も少々長い感じだ。
 専門家やその業種の人間以外の会話や文章の中に「情報通信技術」という言
葉が登場する確率は、そう高くないと思われる。わざわざ英語を由来とする略
語を使うよりも、日本語の「情報通信技術」の方がわかりやすいのではなかろ
うか。
 ところが、どうしても略したい人種がいるのである。
 そう、マスコミである。
 雑誌や新聞の記事には文字数の制限がある。「情報通信技術の普及により」
と書くと12文字だが、「ITの普及により」と書けば8文字。
 子どもの頃、「遠足の感想を原稿用紙1枚以上書くこと」なんていう宿題を
出されてヒーヒー言った経験のある人は多いと思う。
 「公園でお弁当を食べました。たまごやきがおいしかったです。ソーセージ
もおいしかったです。デザートもおいしかったです」といったように、ひたす
ら弁当箱の中身を羅列して原稿用紙のマス目を埋める。それでも足らずに「お
やつはグッピーラムネとハイチューとサイコロキャラメルを持っていきました
」などとおやつの品目まで羅列して、「みやしたさんは食いしん坊だね!」な
んて先生に赤ペン入れられたりして、子ども心に深く傷ついたものである。え、
そんなの私だけ? 失礼しました。
 まあ、あの頃の苦労を思えば、「IT」よりも「情報通信技術」の方が4文字
も儲かるからお得……と思うかもしれないが、なかなかそうもいかないのだ。
なぜかというと、IT絡みの記事は文字数の多い単語をとにかくよく使うのであ
る。
 「コンピュータ」とか「セキュリティ」とか「アップデート」とか「インス
トーラ」とか略しにくいカタカナ言葉が多い上に、「アップルコンピュータ」
のような固有名詞が頻繁に登場する。
 というわけで、マスコミの人間は「米マイクロソフト社のS・バルマーCEO」
といった具合に略語を駆使して、限られた文字数の中で記事を執筆しているの
である。
 さて、このような事情から「ホームページ」は「HP」と略すわけだが、マス
コミにおけるこの手の約束事に囚われない人種もいる。
 彼らは、HPではなく「ほむぺ」と書く。そして、メールを「める」、Netscape
Navigatorを「ねすけ」なんて略したりするのである。
 ほむぺ、める、ねすけ。
 こうやって書いてみても実際に口にしてみても、ただひたすらに脱力。そこ
はかとなくマヌケ。そしてなんとはなしに憂鬱。
 小難しげな用語を柔らかみのあるヒラガナにすることで、カタカナや英文字
の持つ堅苦しさから逃れようとしているのかもしれないが、世界のなにもかも
を強引にファンシーな世界に引きずりこもうとするような邪悪な気配を感じて
しまうのは、私が古い人間だからなのだろうか。
 2003年の4月にもこのコラムで「なじめない」と愚痴ったが、2年たってもダ
メなものはダメ。この字面と語感はどうにもなじめん。
 とはいえ、Adobe Illustratorを「イラレ」と略して呼んでる私がいたりす
るわけだが。デザイン業界では一般的な略語だけど、改めて考えるとこれも結
構マヌケ。