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 「もはや知識はパワーではない。本当のパワーは、知識をシェアできること」。

 先日、久しぶりにPARC(パロアルト研究所)のセミナーに行ったら、調査会社フォレスター・リサーチの副社長ナヴィ・ラジョウがそんなことを言っていた。その内容がなかなかおもしろかったのでお伝えしよう。

アメリカが目指す次のイノベーションは

 PARCと言えば、かつて多くのパソコン技術を生んだ先端研究所として名高い。1979年にここを見学したスティーブ・ジョブズがGUI(グラフィックカル・ユーザーインターフェイス)のアイデアを目にしたことが、今日のアップル製品のユニークな操作性につながっているのは、ご存知の通り。PARCで開かれている木曜日のセミナーは、アメリカや世界の技術者が講演を行って先端のテクノロジーを垣間見る場とされている。

 ゼロックス社の社内研究所だったPARCは、同社の財政難で2002年にスピンアウトし、今は独立した研究・開発会社となっているが、それに合わせてセミナーの内容もちょっとビジネス・ライクなものが混じるようになっている。技術者にも商売のマインドを身につけてもらおうというところなのだろう。このラジョウの講演も、「イノベーション」に関する最新考察といったものだった。

 ラジョウが言うには、今や「アイデア」と「資金」「開発」はひとつの国になくてはならないものではなく、世界に分散しているという。その徴候を示す事象がいくつかある。たとえば、インテルの投資額は2006年度に初めてアメリカ国外向けが国内を超えたこと。あるいはマイクロソフトが中国やインドに研究所を置いて、そこにしか生まれないユニークな未来的思考をすくい上げようとしていること。また、フレクトロニクスという製造請負業者が、世界的なネットワーク体制のもとに設計、製造、パッケージングをやっているようなことである。

 ただし、そうしたネットワークから売れる製品を生み出すためには、「ブローカー」という役割が重要になる。このブローカーこそ、これからの先進国の企業が担うべき役割であるというのが、ラジョウの説である。かくして、知識は自分たちで持つ必要はない、知識をうまくシェアするように仕向けることこそ大切、というわけだ。

世界中のリソースをつなぐ「ブローカー」

 ブローカーの役割が発揮された好例は、ベスト・バイである。ベスト・バイは、日本で言えばヨドバシカメラやビックカメラのような家電量販店だが、この業界は激しい低価格競争と数ヶ月で製品ががらりと入れ替わるような超スピード競争にさらされている。ベスト・バイは数年前、価格競争に打ち勝つためにはむやみに泥沼の低価格競争に猛進するのではなく、イノベーションの手法を盛り込まなくてはならないと見据えたという。そのために、世界中のネットワークを利用する。

 たとえば、ある製品の開発は、このように行われた。製品のアイデアを思いついたのは韓国の新興企業。ベスト・バイは、シリコンバレーのベンチャー・キャピタルに金を出させて、そのアイデアを中国で安く製品化する。それをベスト・バイの上海店で売ってみて、売れ行きをモニターする。なかなかの人気があることを確かめてから、本国アメリカの各店舗で販売開始した結果人気製品となる。この製品はゲーム関連機器だったらしいが、ベスト・バイが八方美人のようにあちこちにアンテナを張り、製造や開発のコスト差もうまく利用して製品化したことになる。まさに現代の製品開発ブローカーだ。

中国やインドへのアウトソース問題が取りざたされて、先進国に残されたのは知識産業だけとここ数年かまびすしく叫ばれてきたが、考えてみればそんな考え方も先進国の傲慢な独り合点である。知識がBRICS諸国からどんどん沸き上がってきてもおかしくないわけで、その意味ではそのさらに先をいく「仲人」的手腕が重要だというラジョウの説にはうなずいてしまった。とは言え、このブローカーや仲人的役割も、そのうち世界中に分散されることになるのは間違いない。いやはや、世界はまさに流動化しているといったところだ。

 ところで、アメリカ企業は「イノベーション」が大好きである。「イノベーション」とは、単に技術的な革新だけを指すのではなく、ビジネスのプロセスや人間の組織など、多くの再編成を含んでいる。次回は、そのあたりの動きを伝えよう。