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 東京生まれ東京育ちの私にとって、大阪へ出張に行く度に戸惑うことがあります。「エスカレーターは必ず右側に乗り、左側は追い越し用に空けておく」という慣習がそれです。

 ご存じの通り、東京は逆。関東と関西で逆の理由については諸説あるようです。「関西は、大阪万博開催時に追い越し車線が左である欧米流に倣った」「大多数の右利きの人が手すりを持って乗れた方が筋だし親切、という関西人特有の合理主義の現れ」「武士文化の名残がある東京と、商人の街大阪の気質の差。武士は腰に下げた刀がぶつからないよう互いに左によけたが、商人はお金の入ったかばんは右手に持ち、すれ違いざまに盗まれないよう右によけた」などなど。どれももっともらしいですが、真実のほどは分かりません。

 ここで、右と左のどちらがいいか議論するつもりはありません。ただ、関西流の合理主義が生んだ(かもしれない)ものの中には、常々ぜひ東京を含めて全国へ普及させたいと感じるルールは少なくありません。

 例えばその一つとして、公共の交通機関が発行する磁気カードやICカード型のパスにおける、残高に対する扱いがあります。首都圏で使えるJR東日本のICカード「Suica」や東京メトロなど私鉄各社が発行する磁気カード「パスネット」は仕組み上、入場時に初乗り運賃分の残高がないと改札を通過できません。入場前に、相当分を必ずチャージしておくことをユーザーに強いる仕組みです。

 始まったばかりの私鉄各社のICカード「PASMO」も同様です。入場時に初乗り分を差し引きませんが、やはり残高が初乗り分に満たないと改札を通過できません。SuicaやPASMOには、残高不足で入場した際に自動的にチャージしてくれる「オートチャージ」機能が用意されているのですが、この機能を使うには、ごく限られた発行元のクレジットカードを所有することが条件となります。ほとんどの利用者は活用できません。

 一方、関西ではどうでしょうか。実は、JR西日本のICカード「ICOCA」にしろ、私鉄各社の磁気カード「スルッとKANSAI」にしろ、残高が10円あれば入場できます。「来る者は拒まず、とにかく降車時に使った分だけちゃんと支払ってくれればOK」というポリシーで運用されているわけです。私鉄各社のICカード「PiTaPa」に至っては、ポストペイという方式を採用しており、チャージする必要すらありません。一定期間ごとに、使った分をまとめて後日銀行口座から引き落とすかクレジットカードで支払う仕組みを採用しています。

 うっかりものの私は、急いでいる時に限って、残高が足りないICカードや磁気カードを持ったまま改札を通過しようとしてしまうことがよくあります。ブザー音にとがめられ、結局、切符売り場に戻って切符を買う羽目に陥ります。そのたびに、時間をロスしてしまった自分に対し、行き場のない憤りを感じてしまいます。

 確かに関東仕様なら「無賃乗車」を防ぐ確率は上がるかもしれません。ただ、大多数の乗客に不便を強いる、「優しくない」仕様と言えなくはないでしょうか。自分のうっかりを責任転嫁するわけではありませんが、常にいくらか多めに交通機関に自分のお金をプリペイドし続ける上得意なのですから、もうちょっと工夫してくれないかなぁと考えてしまいます。

 大阪環状線のJR西日本の駅には、ICカードをチャージするための専用機械がホームのあちこちに設置されており、いつも出張の度にうらやましく思います。これも、精算機の混雑を解消する、関西流の合理主義に基づく発想なのかもしれません。

 これらは、あくまで私個人が感じたことですが、少なくとも私の周りに聞いた限りでは、関西流の運用に賛同する声が多いようです。さてみなさんは、どのように感じましたか?

 余談ですが、世界で初めてFeliCa対応の交通パスを導入した香港を数年前に訪ねた際、驚いたことがあります。駅のエスカレーターが体感上、どれも日本の2~3倍はあろうかという超ハイスピードで動作しているのです。歩くにはちょっと怖くなるほどのスピードのためか、ラッシュ時でさえエスカレーター内を歩行する人はごく少数でした。

 右だろうか左だろうか気にせず乗れて、おまけに歩かなくても十分「時間を稼いでいる」と感じられるのは新鮮な体験。安全上の危惧や年配の方などへの配慮不足があることは否めませんが、ある面ではその運用方法に共感してしまいました。