PR

 いちばん忙しい「師走から入試の時期」が一段落し、一橋大学でも新学期に向けての準備が始まりました。そんな中、3月10日土曜日に、一橋大学の佐野書院で「教育用プログラミング言語ワークショップ2007 -ワープロ07-」を開催しました。2回に分けて内容を報告します。

 このワークショップは昨年に続いて2回目の開催です。前回の「教育用プログラミング言語に関するワークショップ2006」は、東京農工大学の並木美太郎先生が実行委員長を務めてくださいました。小学校から大学までで使われていると思われる入門用のプログラミング言語を16個選び、紹介しました。紹介した言語は次のものです。言語の作者や国内での第一人者を招き、一日かけて熱い議論を行いました。このような試みはおそらく国内では初めてで、歴史に残る日になりました。

  • インターネットのサイト構築: Java、JavaScript
  • パソコンのソフト開発: C++
  • 教育用に使われてきた: Basic、Logo、Squeak、ドリトル
  • 大学で使われている: Lisp
  • 教材ロボット: ワンダーボーグ
  • 日本語で記述できる: ひまわり/なでしこ、言霊、PEN
  • ゲーム作成: Tonyu、HSP
  • 芸術分野に向く: Rosetta、ビスケット

 今回は言語の比較ではなく、このブログでずっと扱ってきた「プログラミングは学校でどのように役立つか?」ということをテーマにしました。そして、多くの小中高の先生方と一緒に議論を深めることができました。

 最初に、私が実行委員長の挨拶として、今回のワークショップの趣旨を説明しました。

 今回のワークショップではテーマを「プログラミングの教育利用」に置きます。そして小中高の学校教育において、プログラミングを体験することにより何を学べるかを集中的に検討したいと考えています。また、学校でのプログラミング利用は多岐にわたるため、今回はいくつの分科会を設け、テーマごとに議論を深めることにします。

42_kanemune160.jpg

 この挨拶では、参加者のみなさんの乗り出してくるような意気込みを感じて、ワークショップの盛り上がりを予感しました。参加者は予定を大幅に上回り、補助いすに座っていただいたり、一時は立ち見で参加する方もいらっしゃる盛況ぶりでした。参加いただいた方々に感謝いたします。

42_all240.jpg

 続いて、筑波大学の久野靖先生に「情報教育におけるプログラミングの役割」というタイトルで講演をしていただきました。講演では最初に、最近起きたソフトウエアが関係するいくつかの事故として「構造計算書偽造事件」「株の1円誤発注事件」「フィギュアスケート採点ミス事件」などを紹介し、事故が起きた背景と、情報社会でソフトウエアを中心としたコンピュータの原理を理解しておくことの重要性を指摘しました。次に情報処理学会で作成した高校生向けの「新・試作教科書」を紹介し、今後の情報教育の方向性とプログラミングを体験することの意味を示しました。最後に前回のワークショップを紹介し、そこで紹介された言語の例として、私といっしょに「ドリトル」を設計したときの体験談を紹介してくださいました。

 前回は120名が一堂に会して発表を聴く形でしたが、今回は午後に「情報科学」「計測制御」「音楽活用」という少人数の分科会に分かれて議論を深めることにしました。私が参加した情報科学分科会を中心に、その様子をご紹介します。

情報科学分科会

 情報科学の分科会は「プログラミングを使ってコンピュータを学ぶ」ことがテーマです。これは現在行われている情報の授業内容と近いものです。最初に、司会者である三重大学の奥村晴彦先生が、ノーベル物理学賞のファインマン博士、エール大学Tufte教授、パソコンの父のアラン・ケイなどの発言を紹介しつつ、「スライドのような箇条書きを学ぶより、文章を論理的に書けることが大切」「コンピュータだけに向かっていないで考えることが必要」という重要な問題提起をしてくださいました。

 続いて私が、このブログでも話題にしたアンプラグド(「Computer Science Unplugged」)を紹介しました。私はコンピュータに囲まれて生活している現代では、学校で「コンピュータがどのように動いているのか」を教える必要があると考えています。ただし、それは「コンピュータがあらかじめ決められた手順で動く」ことであって、必ずしもプログラムを書くことではありません。

 ニュージーランドのティム・ベル博士たちは、カードや天秤などを使い、コンピュータの中で行われている処理を体を使って学ぶ教材を提案しています。私は二進数の例として、片手で5までではなく32まで数えることが可能であり、両手を使えば1024まで数えられることを説明しました。これは実際にコンピュータの中で行われている計算方法であり、適切に説明すれば小学生が理解することも可能です。

 三重県松阪市立飯南中学校の井戸坂先生は、実際にアンプラグドの方法を使って12種類の授業を行った経験を報告してくれました。写真は、ホワイトボードに白と黒の磁石を貼り、後ろを向いている間にどれがひっくり返されたかを当てる授業を実演している様子です。これはパリティという原理で、CDの音楽データやネットワーク通信などでデータが正しく送られなかったことを検出するために使われています。

42_ido160.jpg

 神奈川県立横浜松陽高校の保福先生は、高校でのアンプラグドの授業経験を報告してくれました。写真は、データを大きさの順に並べ替える処理を、生徒がデータの役割をしながら試している様子です。

42_hofuku240.jpg

 最後に、大阪府立泉北高校の中村先生が、大学入試センターのセンター試験で採用されているDNCLを実装した「PEN」というプログラミング言語を紹介してくれました。PENはドリトルと同様に、日本語でプログラムを書くことができます。

42_pen240.jpg

 あまり知られていませんが、センター試験では「情報関係基礎」という科目の中でプログラミングを含むコンピュータの内容が出題されています。情報の授業では、教科書を使うだけでなく、必要に応じてアンプラグドのような教具を使って体験的に知識を深めたり、PENのような入試で採用されている言語を使って実際にアルゴリズムを動かしてみることは効果があると感じました。

 会場のロビーにはこの授業で使ったシートが置かれ、休み時間に参加者たちが実際に試せるようになっていました。コンピュータのCPUは一度に2つの値の大小しか比較することができません。このシートでは、いちどに2個ずつ比較する通常の処理と、いちどに複数の比較を行う並列処理の速度の差を、自分たちの体を動かして体験的に確認することができます。

42_up240.jpg

 今日は「教育用プログラミング言語ワークショップ2007」の前半をご紹介しました。次回はワークショップの後半を報告します。