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 英語で「サイト炎上」は「firestorm」、「サイト荒らし」は「troll」と呼ばれる。Troll(トロール)とは、北欧神話に出てくる変な姿をした生き物のことで、人間のようであり、そうでないようであり。ヒゲに顔が覆われていたり、ボロボロの奇妙な服を身につけ、どこからともなくやって来て、またすぐどこかにいなくなってしまう。サイトに登場してさんざん奇妙なことをやった末に、正体を隠すサイト荒らしに、何ともぴったりの呼び名ではないか。

 こうした単語がちゃんとあるというのは、アメリカのサイトにも炎上や荒らしがたくさん起こるからである。トロールはたいていかなり執拗で、「君のブログ・サイト、ここのところトロールにやられてるね」などという会話がブロガーたちの間であり、やられているブロガーは「そうなんだよ、まいったなあ」という表情をする。

 こうした炎上やサイト荒らしを防止するために、おもしろいルールを決めようという動きが出た。提唱しているのは、Web2.0の生みの親、ティム・オライリーと、ウィキペディア生みの親、ジミー・ウェールズで、インターネット上の建設的かつ健康的な市民活動を導くためのガイドラインを創ろうというものである。

 具体的には、ブロガーやサイト運営者は3つの段階から自分たちに合ったルールを決めることができる。ひとつめは、コメントはアノニマス(無記名)のものであってもいいとするもの。ふたつめは、アノニマスなコメントは歓迎しないというもの。そして3つめは、うわさ話を書くのなら、その情報源も明らかにせよ、というものだ。

 サイト運営者は、そのサイトではどのルールが適用されているのかをマークで明らかにし、ルール違反した投稿者のコメントはどんどん削除する。これまでサイト運営者がコメントを勝手に削除すると、場合によっては「言論の自由」を楯に反乱を起こす投稿者もいて、サイト運営者は自分のサイトなのに自由が利かないという状況も多々あった。

 そもそも今回の動きの元になったのは、あるテクノロジー・ブロガーが生命の危険を感じるような脅しを投稿者から受けたことだという。ルール自体は、女性ばかりのブログ・サイト、Blogher.orgから応用している。

 メールのやりとりもそうだが、ブログの投稿、掲示板でのやりとりなどは「テキスト」だけの限られた世界の中で、研ぎすまされた言語感覚だけを頼りにコミュニケートしていることが多い。この場合、「研ぎすまされた」というのは否定的な意味でもある。普通の人間のコミュニケーション、特に面と向かったコミュニケーションならば、「今日はいい天気で気持ちがいい」とか、「どうも相手はノリが悪い」とか、「あ、笑った」とか、互いに共有する環境がある。

 テキストだけのコミュニケーションには、人間にとって重要なそうした二次的、三次的なコミュニケーション・チャネルが欠けるため、ちょっとしたことばが相手を怒らせたり、ことば尻をつかまえて応酬し合ったりといった「みっともないこと」が起こりがちだ。

 とはいえ、これからのコミュニケーションの多くの部分はサイバー空間を経由するので、懐かしがってばかりもいられない。その結果、このルールのような積極的な動きが出てきたというわけだ。

 サイバー空間では大きな信頼を集めている2人が提唱者になっているから、このルールは急速に受容されるかもしれない。だが、私は複雑な気分になった。役に立つルールだし、サイト上のトラブルを回避する妥当な手段だと思う一方で、やはり、やりとりを通して相互理解を導いていく方法は無理なのかという、がっかりした気持ちがある。インターネットという無数のコミュニケーションを可能にするプラットフォームだからこそ、現実の世界とは異なった特有の相互調整の方法が見いだされるのではとも思っていたのだが。ルールを持ち出さねばならないということは、それを見切る時期に来たということかもしれない。

 インターネットがだんだん現実世界に似てくる。何だかそんな気持ちがして仕方がない。

なお、ガイドラインについては、以下に詳細が掲載されている:http://radar.oreilly.com/archives/2007/03/call_for_a_blog_1.htmlhttp://blogging.wikia.com/wiki/Blogger%27s_Code_of_Conduct