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 今回は最終回のまとめです。この連載では、プログラムを作ることの楽しさを、プログラマーや教育に関わる人たちといっしょに考えてきました。

 そもそものきっかけは、「これだけコンピューターに囲まれて生活しているので、それがどのように動いているのかを知ってほしい」という気持ちです。ここでいうコンピューターは、実はパソコンのようなコンピューターの姿をしているものだけではありません。今や携帯電話やゲーム機、そしてほとんどすべての家電製品がコンピューターを内蔵しています。

 コンピューターはソフトウエアというプログラムで動いていますので、プログラムがどんなものかを知ることが大切です。コンピューターを内蔵した機器をより深く理解し、使いこなすことができますし、場合によっては、危険を察知したり回避することが可能になるからです。

プログラミングの楽しさと大切さ

 プログラムはJavaやCなど、プログラミング言語と呼ばれる専用の言葉で記述します。今まで、プログラムの勉強は簡単ではなく、時間もかかるのが常識でした。最近では、私が開発した「ドリトル」のように、初心者が易しく短時間でプログラムを書ける言語が提案されてきています。

 連載の第2回では、このような入門用のプログラミング言語を紹介する「教育用プログラミング言語に関するワークショップ2006」を紹介しました。ここではドリトルをはじめとする代表的な16種類の言語を、作者や日本の第一人者が報告しています。興味がある方は、どんな言語があるかご覧ください。

 この連載では、第3回から第5回で、ドリトルを使ったプログラミングを紹介しています。30分程度の時間で簡単なゲームを作れます。「プログラムってこんなふうに作るのか」「ソフトはこうやって動いてるんだ」「自分でも作れそうだな」ということを感じてみてください。解説ではパソコンにドリトルをインストールするようになっていますが、ブラウザから実行できるオンライン版で試すのも便利です。

学校でのプログラミング

 日本では、数年前から小学校から高校までの学校教育にコンピューターが取り入れられ、情報教育が行われています。コンピューターの使い方だけでなく、どうやって動いているのかという原理も教えようとしていますが、仕組みを教えるのは簡単ではないようです。

 それは、コンピューターはハードウエアという「目に見える部品」で作られているだけではなく、実際にはソフトウエアという「目に見えないもの」で動いているからです。私たちはこの原理を「手順的な自動処理」と呼んでいます。見えないものを理解するためには、説明を聞くだけでなく、実際に作ってみたり、動かして体験することが効果的です。プログラムを自分で作り、動かしてみることで、コンピューターのソフトウエアを体験的に理解できるのです。

 第6回から第11回では、小中高の先生方に、行っている授業と取り組んでいるプログラミングの内容について話を聞きました。その結果、プログラミングの体験を通して、「原理がわかるのでコンピューターを動かしているという実感につながる」「ソフトウエアという重要な新しい世界の存在に気付く」「知らなかった自分の能力を発見する」「集中して考える」「次々とアイデアが生まれる」といった、さまざまなことを学べることがわかりました。

 子供たちは発達段階によって理解できる内容が異なります。小中学校では、画面の中だけでなく、実際に触れて確かめられる教材が有効です。第14回から第16回では、夏休みに行われた科学教室を見学し、ロボットカーを組み立てて自分のプログラムで動かす様子を紹介しました。

 学校の情報教育は、最初は小中高で同時に開始されましたが、今後は小学校で学んだ児童が中学校に進み、中学校で学んだ生徒が高校に進むといった形で、小学校から高校、そして大学を含めた全体的なカリキュラムが重要になります。そこで、情報処理学会では今後高校で扱ったほうがよいと思われる内容を、試作教科書という形で公開しました。現在は「情報A」「情報B」「情報C」という3つから選択するようになっていますが、これを「情報I」から「情報II」「情報 III」へと深めていく形です。

 入試で情報を出題する大学は徐々に増えてきましたが、現在はまだ10校程度です。そのため、2006年には、一部の高校で情報の時間に受験科目を勉強するなど、歴史などの教科と並んで未履修問題が明らかになりました。第31回から第34回では、その背景を含めて考えてみました。

今後のIT社会で飛躍するために

 国民全員がコンピューターの基礎や常識を知ることは大切ですが、それに加えて専門的な知識を持つ人たちの存在も重要です。ご存知のように日本は資源が豊富でないため、今後も工業やサービスによって発展していく必要があります。そのためには、IT技術がすべての基礎になると考えています。

 第27回から第30回では、世界各国が取り組んでいる情報教育の状況を報告しました。国によって事情は異なりますが、危機感を持って情報教育に取り組んでいるのはどの国も同じでした。多くの国は日本を先進的な工業国として目標のひとつと考えていますが、現在行われている「使えるようになればよい」という日本の情報教育に関しては、「将来も先進工業国でいられるのだろうか?」という疑問を持っているようです。

 お隣の韓国では、日本と同様に資源が少なく、工業やサービスによって発展を続けています。また、インターネットの普及や少子化も日本より早く現象が現れています。そこで、第39回から41回では、韓国の状況と、情報教育の改革の様子を紹介しました。

 日本でも、大学で専門教育をすることに加えて、才能のある人への教育に力を入れ始めています。第22回から第26回では、高校生から大人までの人材を発掘し、その才能を伸ばすプロジェクトについて紹介しました。第17回から第21回にお話を聞いたプログラマーの方をはじめ、音楽や芸術との融合も大切な要素かもしれません。

 IT技術はコンピューターの専門家だけが持てばよいものではありません。今後、社会で活躍する人たちは、必ず何らかの形でIT 技術に関わることになりますし、それが成功を分けるかもしれません。そこで、第35回から第38回では、私が一橋大学で行っている授業を紹介しました。大学で学んでいくための基礎力、自分の才能に気付くためのプログラミング、社会で成功するためのサーバー技術です。実際に、受講した学生が起業するなど成果が出始めていますので、今後の活躍が楽しみです。

楽しかった一年間

 この連載を続けながら、プログラミングを中心に情報教育を考えてきました。いろいろな発見がありましたが、特に第42回第43回で報告した「教育用プログラミング言語ワークショップ2007」では、学校教育では「五感を使った教育」の有効性を強く感じました。

 味覚や嗅覚を取り入れるのは難しいですが、画面という「視覚」だけに頼りがちなプログラミングやコンピューター活用に「触覚」や「聴覚」と組み合わせることで、新しい世界が拓けてきます。

* 教具を使って体を動かして学ぶ。Computer Science Unpluggedのアイデア
* 実物を動かしながら学ぶ。ロボットを制御するプログラミング学習
* 音を聴きながら学ぶ。プログラミングによる音楽表現

 今後も研究を続けていきますので、機会があればまたご紹介させていただきたいと思います。一年間どうもお付き合いありがとうございました。毎週読んでいただいた読者の方、お話を聞かせてくれたゲストの方、そして励ましてくれた編集者の方に感謝いたします