PR

 約25年前、私は科学大好き少年でした。とりたてて造詣があるわけではありませんが、学校の図書館で「宇宙のなぞ」とか「人体のふしぎ」とか非常に分かりやすい題名の本を借りては、下校の途中に読みふけっていました。寝床についても未来の情景や宇宙の果て、ミクロの世界などが頭を駆け巡り、眠れなくなることがしばしば。母親に厳しく叱られたものです。

 中でも最も興味を持ったのが、人工知能を持つコンピューターです。SF小説などでは、恋の悩みや将来の展望を語り合う友人のような存在として登場することもあれば、一方で人類の行動から生死に至るまで管理する神のような存在として描かれることもあります。実際にコンピューターが知能を得るとどうなるのでしょう。神のような存在になるのでしょうか。それとも人を罵るのでしょうか。そもそも、SF小説に登場するような、知能を備えたコンピューターなど本当に可能なのでしょうか。

 2007年6月初頭に、ソニーの科学研究施設であるソニーコンピュータサイエンス研究所が研究成果を披露する「オープンハウス2007」を開催しました。ここに、著名な脳科学者である茂木健一郎氏も来場。ブースで脳科学についてのさまざまな研究成果を披露されました。まさに絶好の機会。脳科学者の第一人者なら、人工知能の実現への見通しが分かるはず。果たして脳の構造や仕組みを数式化できるのか、つまり脳をコンピューターで表現できるのかという点です。

 結論を述べれば、人工知能の実現は遠い将来においても「不可能」とのこと。脳の仕組みは私が考えているよりもずっと複雑でした。脳の仕組みを表すのに、言語や視覚・聴覚などの機能別に分布にした断面図を見かけます。実際、脳皮質をむき出しにして直接電気で刺激すると、記憶した風景などが鮮明に浮かび上がります。では、この部分が風景の記憶を司る部分かというとそうとも言えません。1000億ある脳の神経細胞はそれぞれ複雑につながっていて、電気刺激で視覚した映像は、複数の神経細胞が複合的に見せている映像かもしれないのです。特に人間の感覚は主観的体験の積み重ねであり、1000億からなる神経細胞のつながりで表現される感覚を定量化するのはまさに困難とのことです。

 会場を後にし、私は少なからず興奮していました。宇宙でもない、深海でもない、超ミクロの世界でもない。まさに自分の脳の中に未知なる小宇宙を発見したからです。脳科学の分野ではすでに常識だったのかもしれませんが、私にとっては衝撃でした。帰り道の途中、茂木氏の著書を思わず衝動買いしてしまいました。