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 「日経BPガバメントテクノロジー」という雑誌がある。PCオンラインと同じ日経BP社が発行している、官庁・自治体職員向けのIT情報誌だ。その雑誌の編集長、黒田隆明さんが、行政主導型の地域SNSについて気になる記事を書いていた。『行政主導型の地域SNSに感じた「小さな引っ掛かり」』という記事だ。

 黒田さんの感じている引っ掛かりとは、総務省「e-コミュニティ形成支援事業」などによって、行政が設置した地域SNSで、行政関係者の開設したコミュニティは特定のメンバーに閉じたものが多く、住民がつくったコミュニティはSNSメンバー全員に開かれているというのだ。本来なら逆であってしかるべきだ。

 僕は役所に務めていたので、行政関係者の気持ちが少しは分かる気もする。住民に情報を開くのが怖いのだ。地域社会では、今、高齢化に伴う福祉関連経費の増大、都市施設の維持困難、これらに対する財源や人材の不足など、深刻な問題が山積している。そのことを住民はほとんど実感していない。

 これらの問題の状況をインターネットで住民に知らせたら、行政は何をやっているんだ! という批判が噴出する。地域の仕事は、全部行政がやるものだと住民は思い込んでいる。ひとたび大騒ぎになったら職員は苦境に立たされるだろう。

 自治体職員は、強い行政の時代が終わり、弱い行政の時代に入ったことを認識している。住民に対してその実情を知らせるために行政情報を積極的に公開し、住民とのコミュニケーションに取り組むべきだと、職員は頭ではそう考えている。でも住民の批判が怖くて公開に躊躇してしまう。今や行政は住民の敵と思われるほどに信頼を失っている。

 一時、全国の自治体で開設された電子会議室の数は700以上にものぼった※1。その開設は、市町村長でも、議員でも、市民でもなく、ほとんどが職員の発意だった。職員は、地方分権が進み、自治体の自立が危機的状況になりつつあり、住民との協働が必要であることを知っていた。けれども、電子会議室は住民の関心の低さや、誹謗中傷などに悩まされた。そして自治体の電子会議室は次々と閉鎖されていった。今や職員もまた、地域のことを知ろうともせず、言ったことがすぐに反映されないと憤る住民を信用しなくなってしまった。

 黒田さんは、住民と行政との関係悪化を地域SNSのコミュニティから感じとったのだろう。

地域SNSは顔が見えるリアルな空間だからこそ機能する

 民主主義は、住民が権力を所有し、それを行使する。だから自治体の行政は住民のものである。成長を維持し効率性を追求する中央集権型の上からの行政は、地域社会の持続可能性を求めて民主化を推進する地方分権型の下からの行政に変わろうとしている。

 6月分の給与明細をご覧になってほしい。政府は、地方分権を進めるために国税である所得税から3兆円分を地方の自主財源となる住民税に移し替えたのだ(関連資料)。その結果、住民税が高くなって、実質増税の議論は別にして所得税は1月から少なくなっているはずだ。そして地方分権のために必要な大小様々な制度改正が、今、たくさん実行されている。その審議経緯は、地方制度調査会のページを見ると、その全てが公開されている※2

 例えば、最新の第28次調査会の答申では、地域情報化に必要不可欠なクレジットカードの決済を可能とする地方自治法の改正がなされている(関連資料)。今から10年前、アメリカのサンタモニカ市では、すでにWebを利用して税金や手数料の納付手続きを電子化していた。その決済はもちろんクレジットカードだった。僕は当時、この政策にすぐに飛びつきたかったけれど、地方自治法の改正が必要だと知ってあきらめたことを覚えている。そして、クレジットカードでの支払いすら住民が決めることのできない自治の姿をとても残念に思った※3。だから、手続きの電子化よりも先に民主化のための地域情報化が必要だと思った。

 それから10年も遅れたけれど、ようやく国が地域SNSを普及させて、民主化のための情報化を進めるようになった。住民と行政との関係が悪い中、それでも住民を信じて地域SNSに取り組もうとする自治体は、いろいろな困難があると思うけれど、きっと早期に自立を果たすだろう。

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