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 数カ月前までヤフーのニュース部門にいた知人がいる。彼が言うには、ヤフーにせよグーグルにせよ、午前10時半から11時までは誰に電話をかけてもつながらない。なぜなら、その時間はすべての製品開発を担当している社員が、グループで「スタンドアップ」ミーティングをしている最中だから、というのだ。

 スタンドアップ・ミーティングとは、毎日20分くらいの時間をかけて同じ製品開発に携わるチームが行うもので、7~8人のメンバーがそれぞれ仕事の進捗状況をごく簡単に分かりやすくチームに報告するものだという。

 「分かりやすく」するために、報告にはルールが存在する。各人が発表するのは、「昨日やったこと」「今日やること」「今日のチャレンジは何か」の3項目だけ。それ以外のことはダラダラとしゃべらない。ミーティングに臨むまでに各人が何を3項目にするかを決め、それを皆が納得のいくように発表するわけだ。

 知人によると、このスタンドアップ・ミーティングは、「アジャイル(俊敏な)」というソフトウエア開発手法を採用したもので、小さくブロック化された製品開発を次々と連続させ、試行錯誤を小刻みに重ねながら開発自体の速度を上げたり、環境の変化に機敏に対応したりするものらしい。小刻みだからこそ、毎日の進み具合を確認することが大切になるわけで、昨日やったことを振り返り、今日やることの目標を立て、さらに何が焦点なのかを見定めて皆と共有することが重要になる。

 「アジャイル」の反対は「ウォーターフォール(滝)」開発なのだそうである。ウォーターフォールでは、最初に分厚い開発マニュアルが制作され、それに基づいて開発を進める。ミーティングも毎日やるのではなく、毎週、あるいは数週間ごとになる。会う機会が少なくなるので、ミーティングはおのずと長くなる。

 アジャイルの利点は、日々やることが明確になり、リスクが小さく、スケジュール管理がやりやすくなることだという。リスクが小さいというのは、ある部分の開発がうまくいっていないと分かれば、すぐにやり直しがきくという意味だ。アジャイル方式では、おのずと毎日毎日同じメンバーとうんざりするほど顔を突き合わせながら、製品開発を行う。スピーディーにやり遂げるという使命のもとに一丸となって結束する。おそらく、スタンドアップ・ミーティングはまるで軍隊の朝礼のようなありさまなのだろう。

 この知人はヤフーを辞めてから、ある有名な映画製作会社のウェブサイト開発の担当トップになったのだが、インターネット企業と比べて映画製作会社はまだまだ保守的らしい。このアジャイル方式を広めようとしているのだが、みながなかなか乗ってこないとか。きわめて自分流に仕事を進めたいクリエーターの誇りもあるのかもしれない。

 彼の話を聞いていて、「いや~、私もアジャイルをやった方がいいかも」と思った。毎朝「昨日の反省」「今日の仕事」「挑むべき挑戦」を唱えれば、アドレナリンも湧いて出で、一日の仕事もはかどろうというものだ。ただ、こうした仕掛けにどうも素直に乗れない自分がいるのが、少々問題ではある。