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 オバマとヒラリーの対決が連日新聞紙面を埋め尽くしている中、今朝のニューヨーク・タイムズの政治欄に、ある小さな記事が載っていた。スタンフォード大学法学部教授のローレンス・レッシグが、地元議員の逝去に伴う下院の補欠選に出馬することを諦めたという内容だ。

 周知の通り、レッシグ教授はインターネット時代の著作権問題の専門家で、クリエイティブ・コモンズ(CC)の創設者としても知られている。企業が著作権を延々と守ろうとするために、未来のイノベーションやクリエイティビティが阻まれており、だからもっとフレキシブルでオープンな著作権システムが必要だとして、CCを築いた。

 このコラムでも触れたが、昨年彼は10年間続けてきた著作権問題から、政治の「腐敗」問題に焦点を移していた。著作権問題を追っているうちに、結局は政治内部に金で圧力をかけるロビイストや寄付金問題が、政治を腐敗させているのだと気づいたというのだ。

 「へえ~」と、その決断と変わり身の早さに感心していたが、レッシグはもっと迅速だった。彼は内側から闘うために、下院選に打って出ようと考え始めたのだから。まことに行動する学者、レッシグらしい動きだ。

 回りの反応もすごかった。レッシグが出馬の意向をブログで漏らしたのが約10日前だが、その後すぐにFacebookで支持グループが結成され、「レッシグを議会に送ろうDraft Lessig」というサイトも生まれた。レッシグもそれを受けて「Lessig08」というサイトを作った。Facebookのメンバーは4000人以上になり、寄付金もすぐさま3万ドル以上集まった。選挙活動のボランティアに手を挙げた人はもっとたくさんいる。

 レッシグが立候補しようとした地元は、シリコンバレー一帯をカバーするカリフォルニア第12地区。実はここには30年以上人気を保ってきた女性政治家がいる。立候補すれば、彼女が対抗馬だ。選挙まで残された時間は、30日あまり。レッシグは、調査会社にリサーチを依頼したのだが、そのリサーチが出した結果が「勝つ見込みなし」だった。それを受け、「ここで出馬して大きく負ければ、アメリカの政治を変えたいという運動そのものに傷がつく」と判断。今回の決定に至ったというわけだ。

 それにしても、すべてがスピーディーだった。もちろん彼自身はずっとその考えを温めてきたのだろうが、出馬意向を漏らしてから出馬断念の決定に至るまで約10日。レッシグを理解する人々はもともとテクノロジー業界の住人が多いことは確かだが、スピーディーな機動力の周辺にインターネットが配備され、ここ数日はミクロな力が次々と結集されていくのを刻々と観察しているようなものだった。レッシグは今後、外側から息長く議会を変革する運動を続けていきたいと語っている。

 さて、民主党大統領候補選では、旗色の悪いヒラリー・クリントンのモタモタとした舞台裏ぶりが格好の分析対象になっている。中でも非難の的になっているのは、選挙活動のストラテジストと彼の広報会社に何と1000万ドル(約11億円)ものコンサルティング料や経費を払っているという点。大金をかけることでは有名な大統領選でも、この額はすごいと民主党議員も目をむいているらしい。しかも、クリントン陣営の戦略的失敗は、集まった寄付金を短期勝負的にどんどん使ったのが失敗だったともされている。

 対するオバマは、そもそも草の根的に集めた寄付金が多い上、ジワジワと人々の共感を盛り上げた。予備選最終戦にさしかかった今、モメンタムが最も高いところにある。ヒラリーの大上段的アプローチとは対照的な、インターネット的やりかた。長期戦的戦略と細やかなモニター力を駆使した草の根的アプローチで成功している。興味深いのは、ヒラリー陣営がどんなにインターネットを駆使しても、古くさいにおいを消し去れないこと。人々はそんなところにも、かなり敏感になっている。

 今年の大統領選は、インターネット時代の政治は、そのメンタリティーも方法論も異なるのだという事実を、見せつけてくれることだろう。