PR

 アメリカに来てから趣味の一つになったものに、「エステート・セール」がある。

 エステート・セールは直訳すれば「遺品セール」。つまり歳をとって亡くなった人の所有品を処理するためのセールである。たいていは遺産管理人、場合によっては遺族が週末の数時間、その人の住まいを開放して開くもので、制限がない限り誰が訪ねて行っても構わないことになっている。

 アメリカのコミュニティーではガレージ・セールもよく開かれているが、こちらは不要品のセール。古い道具や、まるでゴミにしか見えないような変な部品が売られていたりする。まあ、そこはさすが趣味の国アメリカ、ちゃんと買い手がいるものだ。一方、エステート・セールはガレージ・セールよりも値段は高いものの、アンティークに近いものや珍しい家具などが売られていたりする。

 エステート・セールが面白いのは、その亡くなった人の暮らし方や人となりが遺品を通して見えてくるからである。私が最初に行ったエステート・セールは、メンロ・カレッジというシリコンバレーにあるお金持ちご子息ご令嬢系の小さな私立大学の教授だったという男性の家。どうも独り者だったらしく、住まいは小さいのだが、いやにおしゃれな人と見受けられた。作家トム・ウルフ並みのストライプ・シャツやダブルのスーツ、カラフルなネクタイがズラリと並んでいるのである。しかもカクテル・パーティーばかりやっていたのか、やたらワイン・グラスやオードブル用の皿などがたくさんある。何だか微笑ましい。私は、ローゼンタール社製の美しいカット・グラス6個を60ドルで買った。

 エステート・セールの狙い目は、お金持ち地域で開かれるもので、広告の内容が良いもの。そういうセールに行くと、いいものが安く手に入る確率が高い。シリコンバレー、いやアメリカ随一地価が高いと言われる町、アサートンで開かれたエステート・セールでは、1940年代に製造された食器セットや手編みのレース製品など、普通ならアンティークとして売られるようなものが山積みになっていた。普段ならあまり見られないような大邸宅に入れるのも、魅力である。ヴィンテージもののシャネルやディオールなどの洋服もぎっしりあったが、ここのご婦人は大女だったのだろう。サイズはほぼXXL。さすがに着られない。

 特に興味深いのは東欧系移民の遺品。明らかに戦前にアメリカに移住してきた人ならば、16人分のカトラリー(ナイフやフォーク類)やテーブル・クロスなど、いやに格式張ったダイニング・セットや、珍しいクリスタル製品などがそろっていたりする。距離と時代を飛びこえて、居ながらにしてこういうものを目にできるのは、やっぱりアメリカならではのことだ。見ているだけで感心するし、ウィンドー・ショッピングより数段面白い。遺品という暗さがないのも、アメリカ的だ。

 ただ、本当に良いエステート・セールは、もうそろそろ尽きるだろうと思っている。今や高級住宅街はIT成功者のヌーボー・リッシュ(成金)に占有され、前IT時代からここに住まい、味のある暮らし方をしていた老人たちは、どんどんいなくなっているからだ。暇を見つけて、せっせと通うべし。