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 プライバシーの問題があちこちで話題になっている。自分の生活をのぞき見られないようにするにはどうしたらよいのか。たくさんの人に見せたくない、見られたくない個人情報の漏洩をどのように防ぐのか。匿名性をどのようにして守るのか。インターネットには人から見られないようにするための情報があふれている。

 けれども、人は見られない存在でいることに満足できるのだろうか。

 ファッションナブルにおしゃれをして街を歩きたいと思うのは、見られたい気持ちに他ならない。がんばって勉強をして高い偏差値をとって良い学校に入りたいと思うのも、お金持ちになって大きな家に住み、カッコイイ車に乗りたいと思うのも、芸能人になって人の前で歌いたいと思うのも、ブログやSNSで自分のことを毎日書き込むのも、人は他人から見られない匿名の存在よりも、むしろ他人から見られる存在になりたいと願う気持ちがあふれているからだ。

 最近はストリート・ミュージシャンがメジャー・デビューすることが多い。「コブクロ」「いきものがかり」などのストリート出身のミュージシャンは、まず身近な生活圏で、現実世界に住む地域の人々に自分たちの音楽を伝え、才能を確かめ、五感で人々の評価を受け止めて新しい音楽のかたちを創りあげてゆく。それが出来れば、メジャー・デビューしてからはアッという間だ。

 最近よく起こるようになった地域デビューからメジャーで爆発という流れは、どうやらネットワークの性質を反映しているようだ※1。例えばCytoscapeというソフトがあるが、このソフトが描く図のように、ネットワークはノードの数とエッジで図に描くことができる。ネットワーク図のノードは人で、エッジはその人が持つ他の人々とのつながりと考えればよいだろう。

 路上ライブなどで地域デビューしてみると、おそらく駅前の通りすがりの人々は足を止めることもなく足早に過ぎ去ってゆくことだろう。それでも足を止める人がいる。コブクロのホームページを見た方は意外に少ないのではないかと思うのだが、とてもショボイ。あれほど有名なお二人なのにストリート・ミュージシャンのページの匂いがプンプンのままなのだ。これがよい。

 コブクロのホームページの左側のリンクの「コブクロって?」の「プロフィール」を開いて、芸能人の写真としてはチョットどうかなぁという感じのページが開いたら、そのページをどんどん下にスクロールさせてほしい。そしてコブクロの歴史が年表になって並んでいるそのさらに下に「さらに詳しいデビューまでの軌跡はこちらで・・・」というリンクがあるのでこれをクリックすると、さらにまた「コブクロの歴史」というページが現れる。ここがとてもおもしろいのだ。

 コブクロほどの才能を持ったミュージシャンでも、路上ライブに足を止めた人は少なかったようだ。それでも足を止めた人、それがコブクロの場合、ゲームショップを営む社長さんだったようだ。その時のことを振り返る「コブクロとの出会い」「再会(出会いから2ヶ月)」を読むと、地域での出会いがどのように起こったのかが良くわかる。

 初期のネットワークは地域でのクラスターづくりだ。最初は自分の友達同士を友達にして、三角形のつながりを少しずつつないでゆく地道な作業だ。コブクロは、30人ライブ、50人ライブという企画を何度も繰り返している。既にファンになった人は5人まで、あとの人はコブクロのことを知らない人を集めて30人、50人になったら、コブクロが出張してライブをしてくれる。ファンになった石田さんが自宅で、大谷さん、木村さんが居酒屋で、芝さんが学校の体育館でコブクロを招いてライブを開いている。人々がどのようにしてつながっていったかが手にとるようにわかる。

 そしてたくさんのクラスターが出来上がったら、それらの弱いつながりを相互にランダムにつなぐ人が必要になる。それはゲームショップのミノスケ社長だったし、石田さん、大谷さん、木村さん、柴さん…だったのだろう。これらのクラスターがつながりはじめると、それぞれのクラスターにつながっている人々の距離はどんどん縮まる。数人を介して人と人とがつながる現象をネットワーク論では小さな世界の現象と呼んでいる※2

 小さな世界の現象は、人々の距離を急速に縮め、これまで作ってきたネットワークの外側に弱くつながる別のネットワークの多様なクラスターを急速につなぎはじめる※3。そして同じ数を何度もかけ算するように、つながりの数は爆発的に増えてコブクロは「ハブ(hub)」になった※4

 コブクロは、メジャー・デビューを果たして一気に爆発したように見えるが、その爆発までの道のりには、地域での小さな弱いつながりを大切にして、地域の人々とともに呼吸を重ねてきた彼らの真面目でひたむきな態度がそこにあった。

 人々に見られる存在になるまでの道のりは楽ではないけれど、小さなつながりが少しずつ増えることに喜びを感じることができる。地域デビューは小さな一歩だ。音楽はもちろん、音楽ができない人も自分のできることでその一歩を踏み出してコブクロに続こう。

【注】

※1 ネットワークの性質についてご興味のある方は、アルバート・ラズロ・バラバシ「新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く」NHK出版、2002年 などをどうぞ。【本文に戻る】

※2 mixiのスタッフが「mixiのスモールワールド性(小さな世界)の検証」という記事を書いています。自分と他の1000万人のユーザとは平均6人でつながったそうです。理論どおりの結果ですね。【本文に戻る】

※3 Mark Granovetter (1983) “ THE STRENGTH OF WEAK TIES : A NETWORK THEORY REVISITED ” Sociological Theory, Volume 1 ,pp.201-233【本文に戻る】

※4 ひとつのノードにたくさんのエッジが集中したものをハブと呼んでいます。その集中の程度は、べき乗則に従って大きくなって一見ランダムに突然ハブへの集中が発生しているかのように見えます。こうした性質をネットワーク論ではスケールフリー性と呼んでいるようです。でも現象として規則性がないように見えるだけで、かなりの意味が含まれていると私は考えています。【本文に戻る】