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 今年のノーベル物理学賞は、南部陽一郎博士、小林誠博士、益川敏英博士の3人が受賞した、その驚きもさめやらぬ翌日、ノーベル化学賞が発表され、今度は下村脩博士が受賞。マスメディアは「日本人が4人受賞した」と大騒ぎをしている。

 確かにおめでたい話ではあるのだけれども、ここでは少し冷静に考えてみよう。ノーベル賞は確かに権威ある賞だが、受賞者の選定にはどうしても色々な配慮がまとわりつき、誰もが納得する形にはなりにくい。
 今回のノーベル物理学賞に関しては、イタリアでは「日本にノーベル賞を盗まれた」という騒ぎになっている。というのも、小林―益川両氏の受賞理由である「CP対称性の破れからクォークが6種類存在することを予言」という研究は、その基礎にローマ大学のニコラ・カビボ教授の研究があるからだ。物理学の世界では「カビボ・小林・益川理論」などと呼ばれることもある。「2人が受賞して、なんでカビボ教授が外れたんだ」というわけである。

 色々考えるに、今回のノーベル物理学賞の選考には色々な偶然が作用していたのではないかと思う。以下は私の想像だ。

 南部陽一郎博士は、まさに「世界のナンブ」というべき大変な実績を挙げてきた人で、ノーベル賞を貰えばハクが付くどころか、南部博士にノーベル賞をあげれば、ノーベル賞のほうが格が上がるぐらいの人だ。そんな人物に、ノーベル賞の選考委員会はこれまで賞を出していなかった。
 最近のノーベル賞は関連した研究を行った3人にまとめて賞を出すという形式を取っているので、あまりに多岐に渡る分野であまりに傑出した業績を挙げてきた南部博士と誰を組み合わせて賞を出すかが、なかなか難しかったのではないかと思う。

 そんな状況の中、今年に入って戸塚洋二博士が66歳で亡くなられた。戸塚博士は、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士のお弟子さんで、小柴博士の後を継いで「カミオカンデ」そして「スーパー・カミオカンデ」という実験装置を使い、ニュートリノという素粒子が質量を持つことを実証した。この業績も大変大きなもので、ノーベル物理学賞間違いなしと言われていたのだけれど、受賞する前に亡くなられてしまったのだ。

 戸塚博士の死去により、ノーベル賞選考委員会は「当然賞を出して然るべき日系人」として南部博士を思い出したのではないだろうか(南部博士は米国籍を取得しており、国籍上はアメリカ人である)。しかも博士は今年87歳。早くしないといけないと思ったとしても不思議はない。
 ここで問題は、南部博士と誰を組み合わせて賞を出すかということだ。南部、カビボ、小林、益川と4人に出せばすべては丸くおさまるが、ノーベル物理学賞の定員は3人である。どうしたものかというすったもんだの末に、カビボ教授は選考から落ちてしまったのではないか、とまあ、そう考えるのである。邪推かもしれないが。

 ノーベル賞も人の出す賞である以上、こういった運不運はどうしても発生してしまう。過去にも、X線天文学の分野で大きな業績をあげた小田稔博士が受賞間違いなしと言われながらも、2001年に亡くなられてしまったという事例が存在する。2002年には、小田博士の共同研究者だったリカルド・ジャコーニ博士がノーベル物理学賞を受賞している。本当に惜しいところだったのだ。