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 ロンドンのラッシュ時間はご多分にもれず、職場へと足早に通勤する多くの人々がいます。この慌しい時間にロンドンの公共機関を利用していて気づいたことがあります。それは、仕事に関係したカバンを持っている人があまり見当たらず、きちっとスーツを着なしていて、いかにも「仕事ができそう」な人ほど手ぶらに近いことです。

ロンドンは世界でもニューヨークと1、2を争う金融センターとして機能していることから、数多くの銀行マンやビジネスマンが働いています。金融危機の影響で、さぞかし金融関係者は日々激務をこなしていることを想像すると、どのようなIT機器を使っているかにも興味をそそられます。

地下鉄でノートパソコンを持ち歩いている人は、それほどいません。地下鉄の駅構内や車両内をよく観察してみると、ロンドンのビジネスマンは4つのタイプに分けられるようです。

第1のグループはいかにも仕事用にノート型パソコンを持ち歩いている、という人。事務系の人が多いようです。リポートを作成するために自宅で残業したのでしょう。

4つのグループの中でもよく見かけるのはバックパックを担いだ人たちです。どちらかというと仕事よりも、帰宅時にスポーツジムなどで運動するのが目的のようです。バックパックにスポーツジムのロゴらしきものが入っているので、一目瞭然です。

そして最後のグループは、金融関係または大企業に勤めていそうなタイプ。みな、きちんとした身なりでいかにも英国紳士という雰囲気の人たちです。最初にも述べたようにスーツをきっちりと着こなし、荷物を持っている様子はありません。

金融関係に勤めている私の友人たちにも共通しているのが、上のような「第4のタイプ」です。持ち運ぶものは最小限にして身だしなみに気を遣っています。彼らが持ち歩くのは財布や小銭、定期など必需品くらい。IT関連では携帯電話くらいです。

ロンドンにある携帯ショップの法人向け携帯コーナー

その携帯電話ですが、圧倒的に多いのは日本でもビジネス用途向けスマートフォンとして知られるカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)のBlackBerry(ブラックベリー)です。欧米企業の多くはセキュリティ上の理由から、個人による会社のサーバーへのアクセスを禁じています。ブラックベリーはこうした法人ニーズにも対応しているため、企業も業務上の利用を認めているようです。日本ほど高速データ通信が可能な第3世代携帯の普及が進んでいない欧米で、ナローバンドでもストレスなくメールを確認できるのもブラックベリーに人気がある理由のひとつです。

実際に使っている人に聞いてみると、ほとんどの人が「パソコンを持ち歩く必要性を感じない」と言います。携帯電話やスマートフォンを持っていて、とりあえず連絡が付くようにしておけば緊急の用事でも応対でき、また「職場にいないから出来ることは限られているため、できなくて当然のことだ」と考えています。

店頭に並ぶブラックベリー製品

また、仕事とプライベートの切り分けを強く意識しているのもパソコンを持ち歩かない理由です。会社での仕事はあくまでも契約上のもので、勤務時間内は仕事に専念するが、勤務時間外は自分の時間だから仕事をする必要はないと考えているからです。日本でも理想論ではそうですが、なかなか実行は難しいことです。契約社会の欧米では至極当然の権利として認められていることが、ロンドンで暮らすと感じられます。

英国紳士として、最も重要なのは次のことでしょう。「荷物を多く持ち運んでいるとスマートに見えない」ということです。仕事一筋の人間にはみられたくないという感情が強く、いかにガムシャラに働かずに仕事をこなしているかを見せたい、という欲望に近い感性があるためです。口調から行動まで、いかに自分は重要な人物であり、指図だけして、実務は他人に任せている、という印象をもたれることを望んでいるようです。

もうお気づきかもしれませんが、最初に4つのグループに分けられると書きましたが、「3つ目」は意図的にはずしていました。ロンドンは国際的な都市で、多数の民族が住むところです。最近ではアジア系もかなり多く、留学生だけでなく、社会人として暮らしている人も数多くいます。アジア系社会人も朝のラッシュ時間などに職場へと急ぐ姿が見られるのですが、基本的なスタイルはイギリス人のそれとは違います。彼らがノートパソコンが入っていると思われる肩掛けカバン、バックパックを背負う姿は、まるで日本にいるかと錯覚するほどです。ロンドンに来て活躍の場を求める外国人企業戦士にとって、ノートパソコンは必須アイテムなのです。

住む場所は変わっても、それぞれの文化を背負った人々の仕事に対する姿勢はそう簡単には変わらないようです。イギリス人はスマートさ、その一方で、日本人を含むアジアの人々は勤勉性を打ち出すことがそれぞれのスタイルとなり、「必須アイテム」にも影響を与えているのです。

ロンドンの金融街シティーでの光景