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 グーグルの無料地図「Google マップ」の「ストリートビュー」サービスを利用している方は多いと思います。地図上で選んだ道の360度パノラマ写真が見られるサービスで、国内では2008年8月から札幌、東京、大阪など主要12都市を対象にスタートしました。訪問先の下見や観光地のチェックなど、便利なサービスとして人気を博しています。

 しかし一方で、「プライバシーの侵害ではないか」と問題視する声があるのも周知の通りです。個人の住宅や通行人の写真が無断で撮影され、世界中に公開されているためです。人の顔については自動処理によるボカシがかけられていますが、知っている人が見れば、その人と特定できてしまうケースがないわけではありません。また撮影したカメラの目線が高いことから、塀をのぞき込むように個人宅の中が公開されている場合もあります。問題のある写真については削除を要求できますが、それもWebサイトを通じてのみ受け付け、電話窓口を設けていないなど、グーグルの対応の不十分さやプライバシー対策の姿勢に批判が集まりました。2008年末には、東京都町田市議会、北海道札幌市議会、大阪府茨木市議会など複数の自治体が政府に実態の把握や規制の検討を求める意見書を採択したほか、福岡県弁護士会がサービス中止を求める会長声明を提出する事態にまで発展しています。

 こうした状況を受け、グーグルは2009年5月13日、プライバシー保護を目的とした新たな運用を開始すると発表しました。具体的には、(1)人の顔に加えて、自動車のナンバープレートについても自動処理によるボカシを施す、(2)撮影時のカメラの高さを40cm低くして、すべての写真を撮り直す、(3)電話による問い合わせの専用ダイヤルを設ける、(4)要求に応じて表札のボカシ処理を行う、という4点です。同社プロダクトマネージャーの河合敬一氏によれば、いずれも日本独自の運用で、「公開以来いただいたご意見を真摯に受け止め、より安心してお使いいただけるにはどのようにしたらいいか議論を重ねてきた」結果だといいます。

 2009年1月1日に同社社長に就任した辻野晃一郎氏は、所信表明において「2009年のグーグルはグローバル化の第2段階に移行する」と宣言。それまでの“世界共通仕様”を脱却し、地域の違いを考慮しながら、日本法人としての社会的な責務を果たしていく考えを示しました。その一例が、ストリートビューにおける今回の改善策と言えるでしょう。日本固有の事情に考慮した独自の対策として、一定の評価はできると思います。特に、公開済みのすべての写真を撮影し直すことは、膨大な手間とコストを要するものです。

 しかしながら、これでプライバシー問題が解決したことにはならないようです。改善策の発表を受けて、東京都情報公開・個人情報保護審議会は会長コメントを発表。「自主的な対応としてこれを評価するものである」としながらも、「個人情報保護法の該当性、プライバシーや肖像権の問題などについては完全に整理されたとはいえない」としています。

 福岡県弁護士会の会長声明を担当した弁護士の武藤糾明氏も、「微修正という感じが否めない。今後も、新規のエリアでは住宅街などが公開されるのだろうが、どうして事前に住民の了承を取ってもらえないのか」と納得がいかない様子。人の顔やナンバープレートのボカシ処理についても、公開前に「人の目によるチェック」が不可欠だと主張しています。

 偶然か意図的かは分かりませんが、グーグルはストリートビュー改善策の発表と同じ日に、遊園地や公園、史跡、大学など特定の施設内をストリートビューを通して公開するパートナープログラムを発表しました。施設の所有者が申し込むと、同社が無料で施設内を撮影し、ストリートビューで公開してくれるというものです。施設の案内や宣伝に役立つサービスで、最初の事例として京都府の高台寺が境内の様子を公開。北海道の旭山動物園も同プログラムに参加する予定です。

 このパートナープログラムのように、自ら進んで「公開したい」というケースも確かにあります。そして公開された写真を「見たい」というユーザーも多いことでしょう。こうした“肯定派”のニーズを満たしつつ、「公開されたくない」という人々への配慮を深め、うまく折り合いを付けていくことが、グーグルの課題と言えるでしょう。