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 初回に書いたが、昔、落語家が仕事をもらうには、ただひたすら電話の前で座ってなければいけなかった。プロダクションや兄弟子から仕事の依頼が来るのをじっと待つ、耐えて待つ、まるで愛人のような暮しであった。それがパソコンが普及してホームページなるものがあると知ったときは、まさに目からうろこ、仕事革命が起こせると思ったものだ。

 実は俺がパソコンと接したのは落語家に入門してすぐのことだ。我が師匠、三遊亭円丈は新しもの好きで、落語界で1番最初にパソコンを生活の中に取り入れた男だ。高座の上にまででかいデスクトップのパソコンを置き「パソコン落語」をやった男でもある。それでも飽き足らず自分でプログラミングして「サバッシュ」なるパソコンゲームまで作り上げた。このゲームは1部マニアに支持され「サバッシュII」まで発売されることになった幻の名作だ。俺はこのゲームの会話台本を任され何度も師匠に怒られた。そりゃそうだろう、だってドラゴンクエストすらやったことの無い男がいきなりRPGの会話を書けと言われても無理な話だ。

 例えば主人公が「宝の洞窟を知っているか」と聞けば道具屋の男が「そんなことよりうちの薬草を買ってくれ」「宝の洞窟を知っているか」「そんなことよりうちの毒けし草を買ってくれ」「宝の洞窟を知っているか」「そんなことよりうちの宝石を買ってくれ」……これが延々10回続いてやっと「そんなに聞くなら教えてやる。東の山だ」。これを読んで師匠が怒鳴った。「バカヤロー!ゲーマーは暇じゃないんだ」。それを聞いて心の中で(暇だからゲームやるんじゃないのかよ)とつぶやいたものだ。

 それから師匠に言われて原稿をパソコンで打ち込んだり、写真を整理したりするうちに段々この便利な箱に興味を憶えた。やがて2つ目になり前座仕事から解放され、さあ、バリバリ稼ぐぞと思ったがそれは遠い夢。変な新作落語ばかりやって受けない、金ない、人望もないと3拍子そろった俺に仕事なんてどこからも来ない。テーブルに置かれた黒い固定電話はピクリとも鳴らないので故障してるのかと思った程だ。

 だからといって、自分から落語を売り込みに行くなんてできない。いや実は1度、地元新潟の市役所に「老人ホームで安く落語しますよ」と電話をしたら「あんた、本当に落語家? 落語家って言うのは江戸っ子じゃなきゃいけないんでしょ。こんな田舎出身の落語家なんているわけない。新手の詐欺?ガチャン」。そのまま電話を切られたことがある。「ああ、でも日本のどこかに俺の新作落語を聞きたいと言う人がいるに違いない。そんな人と知り合う機会は無いものか」……。