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 前回、ペンタブレットの話を書いたが、なかなか上手にイラストを描くというのは大変だ。下に置いたタブレットの上にペンを走らせ、目はパソコンのモニターをにらむ。手の動きと目の動きが別々になって、思った通りの線が引けない。人間同時に違うことをするというのは困難だ。我々落語家は1人で何役も演じるが、おばあさんをやる時はおばあさんの気持ち、花魁(おいらん)を演じるときは花魁の気持ちにならなくてはいけないと教えられた。人間国宝の柳家小さん師匠は「狸を演じるときは狸の気持ちになれ。」……あのー、師匠は狸の気持ちが分かるんですか? なんて突っ込みを入れてはいけない。落語界は封建的な世界。偉い師匠が「OSはXPよりもWindows Me」と言ったらその通りでございますとフリーズしなくてはいけないのだ。

 何人演じようと、そのときはその人物になりきる。これが落語の極意である。しかし例外もある。落語中興の祖とうたわれた明治時代の名人、三遊亭円朝師匠は、自分の演じている人物を演出家の目線で見ることができたと言う。貧乏長屋のおかみさんを演じながら「今日は男の客が多いから、もっと色っぽくやった方が客は喜ぶんじゃないかな」なんて考えながらアドリブで人物を描き分けていたらしい。まさしく天才だ。ペンタブレットで言い変えれば、自分の手の動きを見ずに「なんかエッチな気分だからいつもよりパンチラ多めにしよう」と萌え萌えな絵をモニターに描けると言うことであろう……違うか。

 だが不器用な凡人の俺には到底無理な相談だ。こんな俺でも直感的に絵を描く方法はないのだろうか? 実はヒントはあった。このコラムで前にも書いたのだが、俺が新しく買ったパソコンはタッチパネル可能なモデルである。試しに「ペイント」を起動してペン入力してみると、おお、画用紙に描くように描けるではないか。なんだ、これで十分じゃないか、と思ったのだがやはり反応が悪い。何度もなぞらないときちんと線は出ないし、画面の端だと反応さえしない。直線が点線に変化し塗りつぶしがまだら模様になってしまう。幼稚園に行っている娘の絵よりも下手くそだ。うーん、やはり直接描くのは無理なのだなーとすっぱり諦めた。自作の紙芝居を作る夢は、はるか遠くへ消えて行った。