先頃、米ヒューレット・パッカードが面白いプリンターを発表しました。家庭向けのインクジェットプリンター「HP Photosmart Premium with TouchSmart Web」という製品で、特徴はプリンター単体でネットへの接続機能を持っていることです。
ネットへの接続機能といっても、単にイーサネットや無線LANの機能を備えているのではありません。4.33インチの大型液晶を搭載し、ブラウザーでネットを閲覧できるのです。ブラウザーにはGoogleマップやGoogleカレンダーの印刷のほか、USA Todayといった新聞サイトなどが登録され、コンテンツを印刷できるようになっています。
単に従来のプリンターに1つの機能が追加されただけ、という見方もできますが、流通を大きく変える可能性を秘めています。というのは、パソコンなしで“読みたいものをその場ですぐに印刷”できるオンデマンド印刷を実現したプリンターだからです。
新聞を例に取りましょう。今の新聞では、地方には締め切りが早い版が配られて、都市部など印刷工場が近い場所では締め切りが遅い版が配達されます。これは地方まで輸送する時間がかかるためです。
一方、自宅のプリンターで新聞を印刷できれば、そうした距離の問題は解消でき、どこでも最新版を読むことができます。
でも、こうした便利な機能を持つプリンターは価格も高くなってしまうのでは、という心配もありますが、必ずしもそうとは限らないようです。すでに現在のプリンターは単体で写真を印刷できるよう高速なプロセッサーや大容量のメモリーなどを搭載し、LAN機能も備えながら、“普通のユーザーが買える値段”を実現しています。更に、ネット閲覧機能を新たに追加したとしても、大幅なコストアップが必要なわけではありません。実際に米ヒューレット・パッカードのプリンターは399ドルの値付けが予定されています。
こういうプリンターが普及すれば、新聞社はサーバーで常に最新版を配布して、ユーザーは好きな時間にボタンを押せば、その時点での最新版の新聞を印刷できる仕組みが作れます。
そうなると、新聞は届くものではなく自分で印刷するものに変わっていくことになります。今、新聞の販売店は毎日、朝刊と夕刊を配っています。将来的には契約している家庭にトナーやインクカートリッジを届けるようになるのかもしれません。すると配達するのは月2回ほどで済みます。さらに想像を膨らませると、宅配便がその役目を肩代わりすることもできそうです。
小さい改良や技術であっても、世の中の仕組みを変えていく種になりうる。そんなITの面白さを久々に実感した製品でした。