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 ソーシャルネットワークに関して、興味深い訴訟が起こっている。

 上司の悪口をフェイスブックに投稿し、会社の規則に反したという理由で解雇されたのは「違法である」という訴えだ。

 この解雇は去年、アメリカ東海岸コネチカット州の救急車サービス会社で起こった(日本で救急車といえば消防署の管轄下だろうが、アメリカではサードパーティーのサービス会社がたくさんある)。

 その会社の女性従業員の仕事ぶりについて、ある顧客から不満が寄せられたらしい。彼女に報告書を提出するよう上司が指示。その際、彼女は労働組合に代理を依頼しようとしたが、上司に止められた。

 彼女は家に帰ってから、フェイスブックに不満をぶちまけた。「精神病患者を監督役にするなんて、この会社も笑っちゃうわ」と。

 彼女のアカウントの「友達」には同じ会社で働く同僚も多かったようで、多くの賛同を得て、彼女は「マヌケ」だの「クソ野郎」などと上司への悪口を連発。

 ところが、そんなやりとりが漏れたのだろう。彼女は停職命令を受けた後しばらくして、クビを切られたのだ。その理由は「会社について許可なく投稿しないという、社内のインターネット利用規則に背いたため」ということになっている。

 彼女はそれを不満として、連邦政府の一機関であるNLRB(全国労働関係局)に駆け込み、同局がこの救急車サービス会社を訴えた。救急車サービス会社側は、この従業員は日ごろの就労態度が悪く、投稿のあるなしにかかわらず解雇した、と説明している。

 この裁判で焦点となるのは、ソーシャルネットワークでの意見交換の内容は解雇の対象になるのか、ということだ。NLRBは、「労働者が仲間と労働組合を組織したり、協同した活動を行ったりするのは合法的」という点を根拠に争う予定だという。つまり、フェイスブックでの愚痴の打ち明け合いは、その協同した活動だというのだ。また、この救急車サービス会社がインターネット利用に関して定める社内規定があまりにも幅広すぎて、従業員の言論の自由を剥奪している、ともいう。

 職場での悩みや上司の悪口を仲間と言い合うのは、誰でもやっていることだろう。日本ならば給湯室や井戸端会議、夜の一杯飲み屋などのリアルな環境でよく起こる。この裁判は、そんなリアルなやりとりとバーチャルなソーシャルネットワーク上の仲間とのやりとりはどう違うのか、といった点が争点になるわけだ。

 アメリカの法律専門家の中には、「オフィスのウォーターファウンティンで話すこととフェイスブックで話すことに違いはない」と主張する人々もすでにいる。「ウォーターファウンティン」は冷水機のこと。ニュアンス的には、日本の給湯室と同じである。

 確かに今の時代、オフィスで隣に座る同僚にもメールで連絡する人も多い。インターネットは特別なチャンネルなのではなくて、もう普通のコミュニケーションルートのひとつ。そこで職場の話をして何が悪い、という主張もあり得るわけだ。しかも、フェイスブックなどのソーシャルネットワークでは、そのグループに入る「友達」も制限でき、全世界のインターネットユーザーに会社の内情を知らせているわけでもない。

 その意味で、もしNLRBの主張が認められれば、「ソーシャルネットワークでのおしゃべりは、給湯室でのヒソヒソ話と同じ」という、画期的な判断が下されることになるのだ。ただ、裁判のゆくえは微妙である。この女性従業員の就労態度は確かに優良というわけではなかったようだからだ。それでも裁判の経緯で、職場に関連するソーシャルネットワーク利用の合法性についてさまざまな論点が洗い出されることは間違いない。

 とは言え、ソーシャルネットワークで会社の愚痴を何でも言っていいわけではないらしい。同僚や上司について、相手の名誉を傷つけるような真実でない内容を投稿するのは、法では守られない。