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 パソコンができるようになってよかったな! と思うことはみなさんたくさんあるでしょう。撮った写真を加工できる、好きな音楽をダウンロードできる、メールで簡単にやり取りできる、ネットで世界中の情報が自宅で見ることができる、など数え上げたらキリがありません。そんな中で俺が1番ありがたいと思ってることはこれに尽きます。

「字が上手になったこと」

 なにそれ? って思うかもしれませんが俺にとってはとても大事なことなのです。

 小学生の時、実家が商売やっていたために1人で怪獣ごっこなどして遊んでおりました。毎日ただ怪獣とウルトラマンが戦うだけではすぐに飽きてしまので、そのために自分で勝手にストーリーを作り上げて2時間完結の物語を18話連続で考えたりしたのです。まあ、そのときの才能が今、新作落語で開花? したのかも知れません。

 そんなことばかりしていたので作文は得意で「修学旅行の思い出」なら原稿用紙5枚なんて1時間くらいで書き上げておりました。内容も起承転結がきちっとして、涙あり笑いありの大阪新喜劇真っ青のレベルの高い作品だったと思います。でもそんな素晴らしい作文を大町小学校6年2組担任の杉内美知子先生は「藤田君、なんて書いてあるかさっぱり分かりません。もう1度清書して持ってきなさい」とけんもほろろに突き返すのです。

 確かにミミズのミミズの這ったような文字は本人でさえ時間が経つと分からなくなってしまう始末。それは大人になっても変わらず、まだパソコンに手を出さなかった頃はネタをノートに書いていたのだが、今読み返すとCIAの暗号より解読不能。あの頃必死になって作った素晴らしいギャグの数々がまったくの無駄になってしまたのは悲しい現実です。

 だからずぅーと自分が書く字にコンプレックスを持っていた。そしてほのかに心に秘めていた夢を諦めなければいけないと思っていた。え、その夢は落語家になることだろ? 違います。俺の夢は小説家になることです。

 お前は水嶋ヒロか! と突っ込まれても本当だからしょうがない。俺は落語家になる時に「小説家から落語家にはなれないが落語家から小説家にはなれる。なら先に落語家だ」と頭の片隅で思っていた。だけどあまりに自分の字がひどいのでどんなに素晴らしい小説を書いても出版社の人に読んでもらえない。杉内先生みたいに「もっと綺麗な字で書き直してきなさい」と言われておしまいだと思っていた。 それがパソコンをやっとのことで手に入れ、人差し指で入力していたのが両手になり、やがて絶対俺には無理だと思っていたタッチタイピングまでできるようになったときに「これで小説家の夢も叶う」と興奮したものだ。

 だからパソコンで誰もが読める字を打てるようになった時に「ああ、なんてありがたいんだろう」と手を合わせて拝んだくらいです。

 そしたら本当に携帯小説の依頼が来て、拙い落語小説を発表したらそれを見た小さな某出版社が「本にしませんか?」と持ちかけて来た。おいおい、夢が叶っちまうよ。

 だけど現実はそう簡単ではなく、何度も書き直しを命じられ、すでに4年近くが過ぎている。本当に本として世に出るのか心配な日々が続いています。

 でも俺以外に芸人で小説で注目されようとしているのは爆笑問題の太田さんと先輩落語家の立川談四楼師匠くらいなものだろう。2人とも有名人。俺のそばにいる地味な芸人ではいないはずだ。だからここで俺が小説を出して注目され、徹子の部屋に出てやると思っていたら、とんだ伏兵が現れました。それもなんとすぐそばから。

 そいつの名前は神田茜。このコラムを交互に書いている林家彦いち師匠の奥さんである。

 以前、茜ちゃんは芸人として小説を発表したことがあるが、今回はいち素人として公募新人文学賞の新潮エンターテイメントに本名で応募したのだ。その心意気やよしである。ちまたではちょっと有名人だからと言ってすぐに本を出し小説家気取りの奴らに爪の垢を丸ごと飲ませてやりたい。

 彼女は俺の少し先輩だ。極度の恥ずかしいがり屋で、その人見知りを治そうとして芸人になった変わり者である。そこで彦いちさんと知り合い、結婚したのだが子育てでしばらく表舞台には立たなかった。それがこんな華々しく復活するとは驚きだ。

 題材の女子芸人は自分とシンクロするからリアルで面白いだろう。よいところに目を付けた。実は俺も落語家の話しだ。あれ? もしかしたら俺の小説は茜ちゃんの2番煎じだと思われないか? 5年前にはもう書いていた話しなのに。だけどもし俺が本名でこの賞に応募しても選ばれる自信なんてこれっぽちもない。何が凄いって本名で選ばれたってことだよ。

 昔、茜ちゃんにストレス解消は何? って聞いたことがある。すると彼女はこう答えた。

「旦那が買ってくれたパソコンで旦那の悪口書くことよ。自分の字じゃないから何だって書けるでしょ、ひひひ」

 うーん、やっぱりデジタルは凄いね。