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 かつて、西堀栄三郎(1903~1989)という工学者がいた。化学者であり品質管理の専門家だったが、一般には探検家、登山家として知られているだろう。昭和31年の第一次南極越冬隊の隊長を務めた人物である。余談だが、米国民謡「愛しのクレメンタイン」に、「雪よ、岩よ、」という歌詞を付けて「雪山賛歌」としたのも西堀だ(正確には若き日の西堀他4名の山岳部学生がよってたかって作詞したものを、後に西堀の友人でフランス文学者の桑原武夫が西堀作詞として著作権登録した)。彼は京都大学山岳部OBだった。雪山賛歌の歌詞著作権印税は、すべて京大山岳部に寄付したという。

 日本初の南極越冬隊を組織するに当たって、西堀は次のような方針を立てた。「知恵を絞り抜いて、考え得る限りの準備をする。それでも想定外の事態は起こり得るものだから、想定外の事態に対応できる人材で越冬隊を構成する」。
 彼の方針を福島第一原子力発電所1号炉に適用するならば、「知恵を絞り抜いて、考え得る限りの準備をする」部分を担当したのは、1960年代に米GEで炉の設計に従事した技術者たちといえるだろう。今回は、彼らが炉の設計に込めた安全装備について見ていくことにしよう。

 原子炉は炉内で核燃料にじわじわと核分裂反応を起こさせ、熱エネルギーを取り出す。核分裂反応で、核燃料内には大量かつ多種多様な放射性同位体がたまる。炉内に制御棒を挿入して核分裂反応を停止させても、その後しばらくは放射性同位体が崩壊する際に発生する崩壊熱と呼ばれる熱が出続ける。崩壊熱は、核分裂反応そのものより小さな熱量だとは言え、冷やさずに放置しておけば、核燃料が溶けてしまうほど強い。だから停止後しばらくの間、原子炉内は水を循環させて冷やさなくてはならない。
 福島第一の沸騰水型原子炉(BWR)は炉心を覆う圧力容器と、圧力容器全体を覆う格納容器という二重構造になっている。高温で核燃料が溶けると、炉の圧力容器を溶かしてしまい格納容器へと核燃料が溶け落ちる。さらには溶けた核燃料と格納容器内のコンクリートが反応してガスが発生、格納容器内の圧力は上昇し、最終的に格納容器の蓋の気密を破って放射性同位体が原子炉外に、さらには環境中へと放出されてしまう。
 だから、制御棒を挿入して核分裂反応が停止した原子炉は、なにがなんでも冷やさなくてならない。さもなくば、大量の放射性物質が環境中にまき散らされてしまう(実際、福島第一の事故ではまき散らされてしまったわけだ)。絶対確実に、何があろうと冷やさねばならない。