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 米マイクロソフトは2012年6月18日(現地時間)、初のマイクロソフト製Windowsマシンである「Surface」を発表しました。これまで、マイクロソフトは、マウスなどの周辺機器やXboxといったゲーム機は販売していましたが、パソコンそのものを自社ブランドで販売することはありませんでした。なぜなら、マイクロソフトの一番のビジネスは、ハードウエアメーカーに対してWindowsをライセンスするOEMビジネスだったからです。マイクロソフトをここまで大きくしたのはOEMビジネスがあればこそ。ハードウエアに手を出さないために、原価率が低く、高い利益を出せたからです。

 マイクロソフトがどういうつもりでいるのかは分かりませんが、恐らく、Windowsを搭載したパソコンを販売するメーカーは数年以内に半分以下になっているのではないかと想像されます。なぜなら、マイクロソフトはWindowsに対しては当然ですが誰よりも深く理解しており、他社との競争で圧倒的に有利だからです。マイクロソフトは「公平にやる」というかもしれません。しかし、独自の機能を搭載したり、問題を修正するためにカーネルに手を入れることができるのは、マイクロソフトだけ。それをあとからOEMが入手しても、マイクロソフトと「同じ」にしかなりません。

 かつて、パソコンのパッケージソフトウエアは大きな市場でした。パッケージソフトウエアメーカーも多数ありました。ワープロソフトや表計算ソフトを作るメーカーもありました。しかし、マイクロソフトの「Office」に勝てたメーカーは1社もなかっただけでなく、結局、ほとんどのメーカーが消えていきました。以前は、日本でも米国でも、パッケージソフトウエアを販売する大きな店舗がありましたが、いまでは見る影もありません。残ったのは、専門性が高く、マイクロソフトが手を出していなかった領域のソフトウエアだけです。

 このときに言われたのが、Windowsを開発しているマイクロソフトがパッケージソフトウエアを作ることは絶対的に有利であり、他社と同じ土俵の上で競争しているとはいえない、ということでした。実際、マイクロソフトは、Excelの不具合修正としてWindowsのカーネルを差し替えたこともあります。

 こうした状況を考えると、マイクロソフトがWindowsマシンビジネスに乗り出すことは、いくつかのパソコンメーカーの「死」を意味することになるでしょう。企業向けや地域性などで、簡単にはパソコンメーカーも撤退はしないでしょうが、少なくとも、成長領域である「タブレット」コンピューターのビジネスで、成功する道は閉ざされたと言ってもいいかもしれません。Surfaceは、タブレットといいながらも、カバーがキーボードになるので、ノートパソコンだと言えなくもありません。つまり、従来のノートパソコン分野も十分カバーする製品と見ることもできます。ノートパソコンだから、Ultrabookだから、無関係とは言えないのです。

 もしかしたら、大手のパソコンベンダーを買収する可能性もあるでしょう。製造は、ODM(original design manufacturer;相手先ブランドによる設計・製造)を手がける企業に頼めばなんとかなりますが、アフターサービスやサポートの体制を整えるには時間がかかります。製造同様、アウトソーシングすることもできるでしょうが、ある程度の規模になれば、自身で所有した方が効率的だからです。しかも、マイクロソフトには、それを可能にするだけの体力があります。そして、最終的には、パソコンメーカーや携帯電話メーカーなどを買収して、すべてを1社で賄うアップルのような垂直型ビジネスへと移行する可能性も否定できません。

 世界的に見ると、現在のパソコン業界は、米デル、米ヒューレット・パッカード、中国レノボ、台湾エイサー当たりが上位と言われています。この下になると、販売台数などからみて、部品コストなどを下げづらく、上位と価格競争するのは厳しいと言われています。このため、しわ寄せは下の方から始まると予想されます。マイクロソフトは、タブレットを月産100万台程度と見積もっているという話もあり、下から順位を上げてくるというよりも、いきなり上位に割り込む形になるだろうからです。また、この上位の動きも気になるところです。

 マイクロソフトは、Windowsをライセンスするに当たり、パソコンメーカーに情報開示や特許紛争の予防といった項目を契約に入れていました。しかし、同じハードウエアを販売する他社に情報を開示するパソコンメーカーはあるでしょうか?