2013年1月11日、アメリカのテクノロジー界で多くの人々が嘆き悲しんだ。アーロン・シュワルツという26歳のハッカーが死亡したからだ。死因は自殺。自殺の背後には、マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピューターシステムに侵入したことで、不正アクセス等の容疑をかけられていたこともあるようだ。
シュワルツは、既に10代のころから注目を集める天才少年だった。シカゴ育ち。ソフトウエア開発する父親の影響もあり、13歳のころにはWikipediaに似たウェブアプリケーションを作っていたという。シリコンバレー関係者の間でも有名で、住んでいる東海岸から、ハッカーたちのいろいろな集まりに参加するために一人でシリコンバレーにやってくるのだが、その際には地元の誰かがいつも面倒を見ることになっていたらしい。天才とは言え、何と言っても子どもだからだ。ワールドワイドウェブ(www)の発明者であるティム・バーナーズ=リーも、シュワルツを見守ってきた。
シュワルツは、後にニュースの投票サイト「Reddit」に統合されるRSSフィードのテクノロジーを開発した。Redditはコンデナストに買収されて、彼もちょっとしたお金を手にしたのだが、シュワルツの関心はそういった「テクノロジーで一獲千金」とは全く異なる、「情報の自由」にあった。スタンフォード大学に入学したが、「つまらない」と1年足らずで退学してしまったという。
ハッカーでネットの自由を唱える社会活動家というのが、彼の本質である。オンライン上の海賊行為を監視するStop Online Piracy Act(SOPA)法案の反対運動でも、中心になって活動した。ネットの根幹で、そのあるべき姿を模索した人物なのだ。
シュワルツは2012年、MITのネットワークに侵入して、JSTORと呼ばれる学術論文アーカイブから400万本以上の論文をダウンロードしている。JSTORが出版社に対してはもうけを生むのに、作者や一般の読者にはその知識の利を正当に分配しないことを不満に思っていたという。自由で無料であるべきものを仲介者がブロックしていることに、がまんがならなかったのだ。