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 最近、マイクロソフトに就職が決まった若いデザイナーのことが話題になっている。

 名前は、アンドリュー・キム。ソウル生まれで、カナダのバンクーバー育ち。現在はロサンゼルスの有名なデザイン学校である、アートセンター・スクール・オブ・デザインを卒業したかしないか、それくらいの年齢だ。

 最初にキム君が話題になったのは、2012年の夏のことだった。彼のブログ「ミニマリー・ミニマル」で「ネクスト・マイクロソフト」と銘打って、マイクロソフトのリブランディングをやったときである。

 別に誰に頼まれたわけではないのに、キム君はWindows 8と共に発表されたマイクロソフトのロゴが「古臭さを引きずっている」と言って、もっと現代的なロゴが必要だと書いた。そして、口で言うだけではなくて、自分でマイクロソフトはこうあるべき、というロゴをデザインしたのだ。

 これがめっぽうカッコ良かったのである。

 マイクロソフト自身の新ロゴは、これまでのユラユラした窓(ウインドウ)を止めてストレートなラインでくっきりと構成され、明るいブルー一色とシンプルにはなっていた。だが、キム君に言わせると、「これまでよりはラディカルだけれど、進歩的な感じがしない」。その上、コンピューターなどの製品の上に付くと、奥行きのあるそのかたちの「座りが悪い」というのだ。

 代わって彼が考案したのは、平行四辺形が空を飛んでいるようなイメージのものである。なぜこのかたちになったかというと、大都市でビルの窓を見上げると、長方形に見える窓はなく、どれもこんな風に見えるから。確かに地上から見上げる高層ビルの窓は、非現実的なかたちをしている。キム君は、その未来的で抽象的なかたちをロゴにしたのである。

 キム君は、さらにこのロゴをいろいろな方法で演出して、ブログで見せている。見れば見るほどに、こっちの方がずっといいじゃないかと思えてくるから不思議だ。彼は、ロゴだけでなく、Windows 8の新インタフェースデザイン(発表前は仮称で「メトロ」と呼んでいた)も少々いじって、もっとピクセルらしくできることも強調した。

 新インタフェースデザインは、デザイン関係者の間では、モノに模したアップル風のデザインから離陸して、「ピクセルのためのピクセル」時代のデザインとしてけっこう評価が高い。木の本棚とかカメラのレンズの絵を用いるアップル風の擬モノ的デザインは、以前書いたように「スキューアモーフィズム」と呼ばれるのだが、今はもう既存のモノに頼るそんな時代ではないだろう。デジタルが生み出すピクセル自身の表現を模索するべきだ、という考えが広まっているのだ。

 何はともあれ、キム君が自分でさっさと考案したマイクロソフトのデザインは、多くの人々の目に止まり、ずい分話題を呼んだ。そして、その中にマイクロソフトもいたわけだ。それから約半年たって、キム君はマイクロソフトのXbox部門への就職が決まったのだという。これからが楽しみなことである。

 彼のブログを見てコンタクトを取ってきた企業は、けっこうな数に上ったようだ。キム君は、このプロジェクトをたった3日間で行い、上手にプレゼンしている。それがアピールするのは当たり前だ。引き手あまただったが、キム君はデザイナーだというのにマイクロソフトが好きで(失礼!)、同社への就職を決めたようだ。