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 文化庁メディア芸術祭に行ってきた。今年は16回目。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で国内外3503作品の応募から選ばれた作品を展示している。アートは専門外ではあるが、現代アートは大好きなので毎年楽しみにしている。アートファンとして、興味深かった作品をいくつか紹介しよう。

動くアカペラ合唱団「Pendulum Choir」

 なにはともあれ、アート部門大賞の受賞作品に触れないわけにはいかない。「Pendulum Choir」というミュージックパフォーマンスが作品だ(Pendulum Choirの概要はこちら)。今回のイベントを象徴する作品でもあり、ポスターになっている。展示会場では大画面にビデオが映し出されていた。

 最初にポスターを見たときは「剣山に人間が刺さってる?」などと思った。頭に浮かんだのは芸術性というよりは疑問符だった。

 ところでマイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」という曲を覚えているだろうか。そのミュージックビデオではマイケルやダンサーたちが前に大きく傾く。それに似ているとも思った。

 期間中に東京ミッドタウンで実演されていたので鑑賞してきた。見ると、9人の男性歌手が装置の上に立ってアカペラで歌っている。一人ずつ、棒状の装置の上に固定されて立ち、支柱は前後左右に揺れる。この装置は油圧ジャッキだそうだ。装置の動きは静かでアカペラの音を阻害することはなかった。

 この9人のアカペラを聴くだけでも十分芸術鑑賞した気分に浸れるのに、なぜ歌手たちを装置の上に固定して動かす必要があるのだろうと思うのは無粋だろうか。そう思わずにはいられない。歌手が棒に固定されて動く姿は滑稽に見えなくもない。ただしそうした疑問が「つかみ」となり、このパフォーマンスに引きつけられる。そして実際に聞いてみると見事なアカペラ。奇をてらったことで関心を引き寄せるという効果もあったかもしれない。

 アカペラというものすごくアナログな音楽芸術と、それとは対極的な機械装置との融合。門外漢なので芸術としてどう評価していいか分からないが、面白い試みだと思う。舞台芸術の一種なら、こうした装置は極力見せないように工夫するのにこれは露骨に見せている。装置そのものも、歌手の胴体に巻き付けられた棒も。窮屈そうにも見える。対極的な声楽と装置を一緒に見せることに何か意義があるかもしれないと考えさせられた。