「チューリングマシン」とか、「エニグマ暗号機」「コロッサス」といった単語をこれまでに聞いたことはありませんか? 英国は第2次世界大戦中、暗号解読のための秘密施設をロンドンから1時間ぐらい離れた「Bletchly」(ブレッチリー)という場所に作りました。ここは、ブレッチリーパークと呼ばれ、現在でも当時の建物が残っており、博物館のようになっています。また、敷地内に「National Museum of Computer」もあります。
今回筆者は、スペインのバルセロナで開催されたMobile World Congressを取材したあと、英国に渡り、仕事の合間にBletchlyを見に行きました。
第2次世界大戦中にドイツの開発した暗号装置であるエニグマは、アルファベット1文字を他の1文字に変換するものでした。1文字暗号化するたびに組み合わせが変わり、簡単に解読することが困難な機構を持っていました。これを機械的に解読しようとしたのが「bombe」と呼ばれる装置で、その開発に英国のアラン・チューリングが関わりました。しかし、bombeは機械機構を使っていたため、その処理速度には限界がありました。
そこで、電子的に解読しようとして作られたのが「コロッサス」と呼ばれる装置です。これは現在のコンピューターの源流の1つとされています。また、チューリングは、この仕事の過程でコンピューターについて考えることになり、その基本原理を数学的に表現することを思いつきました。読み書きが可能なテープ(記憶装置に当たります)、記号とその動作(命令セット)、内部状態(CPUの内部状態)を使い、テープ上に記述された記号を読み取りつつ動作していく、コンピューターの基本的な仕組みが「チューリング・マシン」です。
米国で開発された電子計算機であるENIACも、本来は弾道計算の計算表を自動的に作るという目的がありました。同様に、英国でも、戦争が電子工学を「計算する機械」のために応用し、コンピューターの基礎固めを行っていたのです。
そういうわけで、ブレッチリーは、コンピュータの誕生の地の1つと言ってもいいでしょう。