権力争いの世界だって「1番じゃなきゃダメですか?」と聞かれれば、ほとんどの政治家は、もちろんダメだと言うだろう。小選挙区なら1番じゃなかったらフツーの人になってしまうし、政権が取れなければ、政治家は自らの政策を実現することも難しくなる※1。
ある分野で1番になることが、人間の思想を実現するための第1歩になることは、競争を正当化の手段とする人間社会では頻繁に見られることである。iPS細胞だって、山中伸弥教授が初めて樹立したからこそ、ノーベル賞が贈られたわけであるし、日本の医薬品開発や医療現場へのiPS細胞の応用機会が爆発的に拡大するのである。科学技術への投資は、知識こそが糧の先進国には必要不可欠である。
今でも毎年1.8倍のペースで演算速度が増してゆくスーパーコンピューター(スパコン)の世界であるから、「京(けい)」が世界一を目指す、というよりは、国家プロジェクトとして新たに開発するスパコンが世界一になるのは当然の要求だったはずである。
事業仕分けだけでなく、設計を担当する企業の撤退など、様々な困難を伴った「京」の開発は2012年7月に完了し、9月からは産業界での供用が開始されて本格稼働している。その稼働状況については、施設内で常時公開されているのだが、ジョブ待ちも多く、コンピューターとしては完全にフル稼働している印象である(図1)。
「京」の活用対象分野については、2013年1月8日に放送されたNHK「クローズアップ現代」をご覧になられた方々も多いのではないかと思うが、スパコンにしては珍しく非常に多岐にわたっている。
この番組にも登場した神戸市企業誘致推進本部スパコン・大学グループ・マネージャーの神木与治(かみき・ともはる)さんに、ビッグデータビジネス・コンソーシアムの会合でお会いしたので、「京」が設置されている(独)理化学研究所計算科学研究機構と、産業界が「京」を利用するための入口となる(財)計算科学振興財団のスパコン「FOCUS」の活用状況をご案内いただいた(図2)。