大都会には、超一流の飲食店が目白押しではあるけれど、毎晩、高価なA級グルメを堪能できる人々は、早々にアベノミクスの旨みを享受する人々と概ね一致するのだろう。遅れてやってくる給与アップを首を長くして待つ人々には「俺の……」スタイルのグルメも悪くはないけれど、日本各地の豊かなA級グルメに触れるなら、笑顔と暖かいおもてなしが、時間に追われる人々をやさしく迎えてくれるだろう。
筆者の勤務する東海大学の湘南キャンパスは、新宿から小田急線に揺られること約1時間の東海大学前駅にある。そこから15分ほど歩くと、約50万平方メートル、東京ドームでおよそ11個分の大きさを誇る緑豊かなキャンパスがある※1。
そして、このキャンパスからは、スカイツリーから見るその姿とは比べ物にならないほどに雄大な富士山を望むことができるし、高い建物に上れば、相模湾に浮かぶ江の島が遠くに見える。そして丹沢の山々が手に取るようにせまり、そこにはウサギ、ムササビ、タヌキ、キツネ、カモシカ、サル、イノシシ……、ツキノワグマだって生息している。
時間に追われて競争に明け暮れていると、都心からわずか1時間の身近な土地にこんな大自然があることを忘れてしまう。でも、高尾山がミシュランの3つ星になるくらいだから、実は、日本という豊かな国は、どんな都市からだって1時間も移動すれば、地元色に輝く素敵でスローなA級グルメをたくさん見つけることができるのである。
私の職場の近くでA級グルメを味わうなら、まずは、心穏やかにゆったりと、身体のリズムを内側から整えたいときにうかがう大山(おおやま)の豆腐料理がある。
桜の季節なら、いきものがかりの「SAKURA」を口ずさみながら小田急線に揺られて伊勢原駅に降り立って、そこからバスに乗って田舎道を揺られて30分ほど。終点の「大山ケーブル」で降りるならバス停からすぐのところに「こま参道」がある。この参道沿いやその周辺に豆腐会席を提供する旅館やお店が数多く立ち並んでいる。