Bluetooth機器を使うためには、事前にペアリングという手続きを行わねばなりません。
Bluetoothは無線を使います。無線の良いところは、物理的な接続ではないために、お互いの位置が自由になるという点です。その半面、電波が到達する範囲にある機器は電波を受信してしまいます。ケーブル接続のように相手を選ぶことが簡単にできないという問題があります。
ペアリングは、こうした問題を避けるため、利用者が自分の機器同士をお互いに登録し、登録していないデバイスとは通信しないようにし、さらに通信を暗号化することで、たとえ電波を受信できても、通信内容を知られないようにするためのものです。
つまり、ペアリングには、相手の身元確認(同じユーザーが管理していて、接続を許可したデバイスである)と、暗号化のキーの設定(一般に暗号は、両者が同じ暗号キーを持つ)という2つの重要な役目を持っているのです。逆にいうと、ペアリングをしないとBluetoothを使った通信は原則できないと思っていいでしょう。
ただ、無線にはもう1つ分かりにくい部分があって、ユーザーには、なんの通信をしているのかが見えないため、デバイスの情報表示に頼るしかありません。物理的なケーブルであれば、ケーブルの種類や端子の形で役割がはっきりと分かります。LANのケーブルをヘッドホン端子に接続することはできないし、電源端子をUSB端子に接続することもできません。USB端子にUSBケーブルでマウスが接続されていれば、なんのために接続されているのかは見れば分かります。
Bluetoothでは、この端子やケーブルに相当するものがプロファイルと呼ばれるものなのです。しかし、実はペアリングとプロファイルは無関係で、お互いに共通するプロファイルがなくても、ペアリングができてしまうこともあります(このあたりはデバイスによります)。また、オブジェクト(データやファイル)交換などの機能は、必要なときにだけ接続する使い方になるので、ペアリングは必要なものの、接続時にプロファイルとして表示されるとは限りません。例えば、Androidでは、ステレオ音声の通信(A2DP)やヘッドセット/ハンズフリーの接続は、詳細項目として表示されますが、オブジェクト交換に関しては何も表示されません。iOSに至っては、オブジェクト交換機能そのものがありません。
便利だけど、見えないので分かりにくい。それがBluetoothに対する多くの人の印象ではないでしょうか。特にペアリングと呼ばれる操作は、同じ無線の設定でも無線LANのアクセスポイントの設定とも違います。もちろん、使い方が違うので、設定方法が違うのは当たり前なのですが、無線LANのアクセスポイントは、最初にアクセスポイント側で、名前(SSID)と暗号化キーを設定して、あとはクライアントデバイス側で暗号化キーを設定するだけです。このため、暗号化キーさえ覚えていればSSIDはデバイスが探してリストにしてくれるために、いまではさほど難しいと思うユーザーは少なくなってきています。
どうしてBluetoothでも同じようにできないのかというと、ヘッドセットやマウスなど、接続する機器側が画面や入力手段を持たず、機器自体がユーザーインタフェースを提供できないものが少なくないからです。このため、Bluetoothのペアリングは、どちらで設定してもいいようになっていて、例えばヘッドセットなどではペアリング用のキーが固定のものになっているものが多かったのです。しかも、電源ボタンを長押しするなど、ペアリング可能な状態にするには、ちょっと面倒な操作が必要でした。
しかし、NFCとBluetoothの組み合わせは、この面倒なペアリングを簡単にしてくれます。NFCは、通信が行われたときにOSなどのシステムに対してイベントを送るようになっているため、あらかじめシステムをBluetooth用の設定にする必要さえなく、単にNFCリーダー部分に対応Bluetoothデバイスをかざすだけでペアリングが開始されます。