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「規則を守る」と「守れる規則」は表裏一体

 ここで、コンプライアンス強化の重要なポイントが浮かび上がる。単に「規則を厳密に守れ」というだけではダメで「とてもじゃないが、実際問題として厳密には守れない規則」は廃止する必要があるのだ。「規則を守る」ということは「実際に誰もが守れる規則にする」ということと表裏一体なのである。

 ところが現状の日本を見ていると、「守れる規則にする」というところがおろそかになっているようだ。守れる規則は、従来に比べればスカスカに思える。「そこまで緩めてしまっていいのか」と不安を感じるから、なかなか規則を変えることには踏み出せない。しかし、実際には今まで規則が適用する現場で、よろしくやることで秩序を維持してきたわけで、そこを一律に「規則を守れ!」とがっちり統制すると、組織は硬直化し身動きとれなくなる。

 いや、それどころか現状では、コンプライアンス強化と同時に、規則の強化も進んでいるように見える。

 とある独立行政法人では、コンピューターネットワークがクラックされて重要な情報が盗み出されたことから情報管理を厳格化した。それはいいのだが、プレゼンテーションファイルを入れたノートパソコンの持ち歩きも制限したものだから、社内の情報流通が面倒になり、会議一つ開くのも大変面倒になってしまったそうだ。

 あるいは某企業では、社員証を使ってフロアごとに入れる社員を制限したところ、会議室がフロア内にあったため、別のフロアに勤務する社員同士が会議を開けないということになってしまった。もちろん招き入れることは可能なのだが、トイレはフロアの外の廊下にある。別のフロアの会議に出席していてトイレに行きたくなったら、そのフロアの社員についてきてもらうしかないという、お笑い事態が起きているそうだ。

 お笑いで済むぐらいならまだましだ。

 今、公立の学校では、もっときちんと情報を管理して生徒や親と向き合いましょうということで、コンプライアンス強化が進んでいる。教育委員会、コンプライアンスで検索すると、ごっそり資料がネットにアップされているのが分かる。

 しかし、その結果を調べていくと、かならずしも結果は芳しくない。やたらと報告書の類が増えて、先生達は子供に向き合う以前に書類作成に忙殺されているという話がよく聞こえてくる。