とにかく重いものを持つのが嫌いな俺は、なにもかも最軽量を目指している。仕事に必需の物と言えば、着物、羽織、長襦袢(ながじゅばん)、帯に足袋、そしてステテコ肌襦袢、扇子に手拭い。これが無ければ高座に上がれない。総重量5キロはあるだろう。これが冬になれば着物も袷(あわせ)になり、厚ぼったい生地だともっと重くなる。この荷物を寄席に出るときは持ち歩き、地方だとそこに雪駄が加わる。これが基本で、その上、文庫本、タブレット端末、着替え、スマホ用充電器など入れれば、ずっしりと肩に食い込み、腰痛の元になる。
しつこい腰痛持ちの俺は、少しでも痛みが和らぐように荷物の軽量化を目指して努力している。まず着物は薄くて、しかも透けないような生地にしている。そして羽織を着ないために、着物自体にデザインして目を引くように工夫している。長襦袢も着物には珍しいメッシュ生地で、帯も薄いがちゃんとした正絹の帯である。ステテコ肌襦袢は服の下に着込んでいる。だから俺の着物の総重量は2キロをちょっと超えるくらいであろう。落語界一の軽くコンパクトな着物だ。
でも、どうしても必要なもので、着物以外で持参しなくてはいけないものがある。それは録音機だ。同じネタでもその時の客の雰囲気でアドリブをかましたり演出を変えたりする。だからできるだけ自分の高座を録音して復習したい。
以前、スマホに巨大マイクを差し込みMP3録音アプリを入れて大変に便利だとコラムに書いた。確かに録音機を持ち歩かなくて済むのだが、このアプリ録音に欠点が見つかった。
それはスマホを自分の手元に置いて録音する分には問題がないのだが、遠くから録音すると上手に録音できないことだ。これは録音方法に問題もあるのだが、俺が録音するときは高座に上がった側の、体の横付近にスマホを置く。それで座布団に座り落語を始めるのだが、落語には上下(かみしも)があってそれで左右を向きながら違う人物を演じる。だからマイクに向いている時は良いが反対を向いて演じていると声が入らない。だから声が波のように大きくなったり小さくなったり、途中でぶちぶち切れたりする。
高座のちょうど中央にスマホを置けばいいじゃないか! と思でしょう。しかし俺のスマホは巨大ノーニちゃんです。5.5型のスマホが手ぬぐいの横に置かれていたら、お客さんが「あのでかい機械はなんだ?」と思うでしょう。それに俺は目が悪いから、と勘違いしてスマホで汗を拭いたりしたら大変です。
いつも録音に使っているローランドのICレコーダーを持ち歩けばいいのだけど、重くはないが、そんなに軽くもない。毎日出ている寄席で気軽に使おうと思うとファイル表示が日本語表記できないので、何を録音したのかいちいち確認しなくてはいけない。電池を結構消費するので、いつも予備の電池を用意してなくてはいけないのも問題だ。