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 コンピューターで日本語を入力する場合、ローマ字やカナ入力を行い、これを漢字に変換する仕組みを一般的には使います。Windowsでは、これを「IME:Input Method Editor」といいます。一般には、これを「Input Method」(入力方式)といい、IMEはWindows固有の用語なのですが、他のシステムでもIMEという用語を使うものもあります。例えば、Androidは、IMEという用語を使っています。

 かつて国内では、これを「かな漢字変換フロントエンドプロセッサー」や「日本語入力フロントエンドプロセッサー」などと言っていました。これを略して「かな漢変換フロントエンド」や「かな漢FP」などと呼んでいました。フロントエンドプロセッサーとは、本来の処理を行う前段階の処理を行う部分システム(ハードウエアの場合もあるしソフトウエアの場合もある)を意味する言葉で、MS-DOSの時代に、キーボードのハードウエアとMS-DOSの間に入って、日本語入力を処理していたからです。IMEという呼び方になったのは、Windows 3.1の頃からで、日本語入力は、OSが持つ機能の一部として提供されるようになりました。というのも、構造的にフロントエンドプロセッサーとして組み込むことが事実上不可能になったからです。そのため、Windowsには、IME用のAPIが提供されることになりました。当時は、WindowsにIMEが標準付属といっても、変換効率(仮名漢字変換の正しさ)がいまひとつだったからです。ちなみにWindows 3.1に搭載されたマイクロソフトのMS-IMEは、当時サードパーティのエー・アイ・ソフトから出ていた「WX2 for Windows」という製品のOEM版でしたが、現在では、マイクロソフトが開発を行う製品になっています。

 そもそも、文字の入力時に、キー入力を受け付け、それを他の文字に変換するという基本的な仕組みは、日本で考え出されたものです。文字入力にはさまざまな方法があります。例えば、文字1つ1つにコードを割り当て、これを覚えて入力する方法なども、かつては使われていました。この「かな漢FP」方式は、変換処理にプロセッサーパワーを必要とし、変換辞書などへのアクセスが必要など、コンピューターの「リソース」消費が大きく、簡易なプロセッサーでは、人間の入力速度についていくことができませんでした。そのため、初期の頃は、変換処理などが必要ない、コード入力方式などが主流でした。

 こういう背景で、日本語の入力機能は、OSとは別に発達しました。しかし、Windowsに標準で日本語IMEが付属するようになり、その品質が高まると、サードパーティ製品を購入して使うユーザーが減ってしまい、現在では、製品パッケージとして販売されているのはジャストシステムのATOKぐらいしか残っていません。もちろん、スマートフォン用やLinuxなどのオープンソースソフトウエアとして生き残った製品もあります。例えば、Androidで標準的に使われているWnnは、UNIXワークステーションに採用されていたものでした。

 Windowsでサードパーティが減ってしまった原因はもう1つあります。マイクロソフトがIMEを標準で添付するようになり、そのAPIは、マイクロソフトが新バージョンのIMEの開発を終了してからでないと公開されないようになったのです。マイクロソフトのIME APIは、日本語だけでなく、世界のIMEを必要とする言語のために開発されています。その点では、日本は、IMEを使う国の1つでしかありません。また、IMEをサードパーティが開発しているのは、いまや日本しかありません。これは、IMEを必要とするようなマルチバイト文字の言語を使う多くの国では、パソコンの普及が遅れ、サードパーティが育つ前にWindowsが普及してしまったからです。