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 日本航空のすべての国際線に搭乗した唯一のパイロットが、「おや」と思い始めたのは20世紀もあと10年を切ったころ。干上がった黄河、琵琶湖の100 倍の水量を誇っていたアラル海の縮小、夏でも冬のような流れを見せるジェット気流──。小林宏之氏が見たそれらは、どれも彼の数十年に及ぶキャリアの中で初めて見るものばかりだった。

 その異変に気付き始めてから10年を経て、時は21世紀を迎えていた。小林氏に転機が訪れる。遠く海を越えた米国で発生した同時多発テロ。これによって、それまで機長が許可すれば入ることができた操縦席に乗客が入れなくなってしまった。「180度遮るものがない状態で上空からこの美しい地球を見られるのは僕たちパイロットだけになってしまった。10年近く危機感を少しずつ強くしていた自然破壊に関しても伝えなければという気持ちでした」。それ以来、彼は小さなデジタルカメラを携えて大空に羽ばたくことになる。

 安定飛行に入り、安全を確認した上でしか撮影はできない。そのため、1回のフライトで撮影する写真は2~3枚程度だ。溶け始める氷河や北極の氷、もくもくと発生する積乱雲。年間にして数十枚の写真だが、どれも地球の異変を証明するのに十分な「動かぬ証拠」だ。

 撮影した写真は日本気象協会や宇宙航空研究開発機構、海洋研究開発機構など多くの団体にも提供する。「衛星やスペースシャトルの距離から地球環境が変わっていると分かる段階では時既に遅しです」。上空1万メートルから見た地球を写真で残し、多くの人に今地球で起きている“現実”を知ってもらう。「それは航空会社にいる僕らにしかできないと思っています」。

 自分の目で見るより、写真を撮影してみて初めて気付くことも多いという小林氏。次世代のコンパクトデジカメに求めるのは風の流れやオーロラが撮影できること、だそうだ。