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 神奈川県・青葉台にある自宅兼オフィス。温かい笑顔で招き入れてくれたのは、ユーディットの代表取締役関根千佳氏だ。20年近く勤務した日本IBMを退社し、女性や障害者、高齢者に使いやすい製品開発のコンサルティングなどを手がけるために起業した。日本 IBMに勤務していたときから、ユニバーサルデザインの重要性を訴えてきた関根氏が考えるアクセシビリティの現在、過去、未来とは。

■パソコンが果たした功績は。

 文字通り、「パーソナル」になったことが一番大きいと思います。その昔「コンピューター」といえば、企業のダム端末やサーバーを指し、「パーソナル」からはほど遠いものでした。それが「パーソナル」になったこと自体が、障害者や高齢者にとって最大の変化でしょう。

 手元にコンピューターがあることで、自分が読みたい速度で、見たい大きさで情報を手に入れることができるようになりました。情報を取得できるだけではありません。自分で発信することもできます。それはすなわち、障害者や高齢者に対してコミュニケーションを可能にしたということなのです。情報発信と情報取得という面では、確実にバリアフリーに近づいたと思います。

■技術の進化とともに、社会全体も障害者や高齢者に優しくなっているのでしょうか。

 その「芽」は企業などに芽生え始めている気はします。身近なところでは、NTTドコモの「らくらくホン」※1もその一例ですよね。ただ、もう一皮むける必要はあります。ものを作る企業はもっとユニバーサルデザインやアクセシビリティを意識すべきでしょう。それは何も狭い市場に切り込むことではありません。例えば、片手しか利用できない障害者のニーズを満たす製品は、子供を抱えたお母さんに役立つかもしれません。車いすに乗った方のニーズを満たすことは、背の低い小さな子供のニーズを満たすでしょう。“重い”ニーズを考えて作り出されたハードやサービスは必ず、“軽い”ニーズを満たすのです。

 ほかにも、量販店にパソコンを購入しに行ったときに、コンシェルジュのような人がいるといいですよね。お医者さんのように1人1人を診察して薬を出してくれるような。どんなことがしたいのか、そのためにどういったハードやソフトが必要なのかを細かく“処方”し、それをハードに反映して販売してくれる人です。それを支援する国の対策も今後は必要になってくるでしょうね。

■アクセシビリティの観点で見る未来はどうなっているでしょうか。

 技術自体の予測はなかなか難しいと思います。ただ、情報と通信の技術(ICT)は少なくとも水道や電気と同じ社会のインフラになっていることは間違いないでしょう。幸いにも、日本は他国に比べて高齢者の比率が高く、アクセシビリティのノウハウをため込める環境にあります。そのノウハウは数十年後、日本が誇りを持って他国に輸出できるものであるべきですし、そうなっていてほしいとも思います。

 今、若い技術者に「これは誰に使ってほしいの?」「何の役に立つの?」と問うたときに答えられない人が多い。どんな技術も人間が作ります。そして、それを使うのも人間です。そこにもっと「思い」を持ってほしい。その技術はどこで誰が何のために、そしてどんなふうに使うのか。ユニバーサルデザインの観点で言えば、このような考えを抜きにした技術というのはありえません。

 「カームテクノロジー(Calm Tec-nology:穏やかな技術)」と言われたりもするのですが、技術はどんな人間にとっても優しくあるべきです。人間が技術に合わせるのではなく、技術が人間に合わせるように存在すべきだと思います。人間にそっと寄り添い、必要なときにさっと出てきて役に立ってくれる、そんな“ティンカーベル”のような存在になってくれると私は信じています。

※1 ボタンや画面を大きくし、機能をシンプルにした携帯電話