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 「YouTube」で見られる「Chrome」(グーグル)のCM、NHKで放送された「星新一ショートショート」の立体アニメーション、そして、本誌表紙のオブジェなど、井上仁行氏が率いるパンタグラフの作品は、どれも実在する。CGのように見えるものもあるが、必ず手で触れる現物が存在しているのだ。持ってみると見た目より軽い。発泡スチロールやMDF(中密度繊維板)といった、軽い素材が多用されているからだ。

 制作過程は大半がアナログ。アイデアを出し、手で設計図を描き、ホームセンターや100円ショップで見つけ出した材料を削ったり、色を塗ったりして組み上げる。そしてそれを撮影し、編集やレタッチをするときに「デジカメやパソコンが不可欠な存在」になる。

 この仕事を始めた1998年当初は、ポスターやCMの撮影に使うオブジェやジオラマをメインに作っていた。「そのころはずっこけるほど機材が高かった」ため、立体アニメーションに取り組み始めたのは数年前のこと。現在、アニメーションはアップルの「iMac」で編集している。

 制作過程のすべてをデジタル化することはしない。「フルデジタルでもいい作品はできると思う」が、井上氏自身は“手で作る”感覚が鈍くなるのを恐れて敬遠している。「それに、立体を手で作るのが好きなので」。

 講師として、美術大学で教えてもいる。心配がある。パソコンを上手に利用できる学生が少ないのだ。彼ら彼女らは、物を作るとなるとまずパソコンの電源を入れてしまう。パソコンは数ある道具のうちの一つ。そう考える井上氏は、つい手に取りたくなる道具とその手触りが好きだという。「昔の道具って、何年も使えるし、使うと、どんどん価値が上がる。理想の道具ってそういうものですよね」。そしてこうも思っている。「パソコンにも、そうなってほしいです」。