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 2009年7月24日、米マイクロソフトの研究組織の一つ、マイクロソフトリサーチケンブリッジの主席研究員クリストファー・ビショップ氏が来日し、子供たちに「冒険!コンピューターの世界へ!」と題するレクチャーを行った。毎年クリスマスの時期にロンドンで開催される英国王立研究所の青少年向け科学実験講座「クリスマス・レクチャー」の日本版「英国科学実験講座」(主催:読売新聞社、ブリティッシュ・カウンシル、科学技術振興機構)の講師として登壇したもので、コンピューターの処理能力を決めるプロセッサーの技術や、ソフトウエアのアルゴリズム、ハードディスクがデータを記録する仕組みなどを、簡単な実験を交えて解説した。講演後、マイクロソフトリサーチの取り組みやコンピューターの未来について話を聞いた。

■専門は「パターン認識」と「機械学習」だそうですが、マイクロソフトリサーチではどのような研究をしているのですか?

 インテリジェントマシンというものをどう作るのか研究している。コンピューターをどのようにトレーニングするのか、どのようにしてコンピューターが自分で学習できるようにするのかという研究だ。身近な例でいうと、迷惑メールの認識やウイルスの検出、手書き文字の認識や人の顔を認識する技術などにも関係する。

 将来的に面白い分野としては、コンピューターをもっと使いやすくするための技術がある。マシンインテリジェンスによって、ユーザーがコンピューターを使っているという意識がなくても、裏でコンピューターが自動的に働いてくれる。そんなコンピューターを実現したい。

■マウスやキーボードで意識的に操作するようなコンピューターではなくなるのですか?

 好例が、マイクロソフトのゲーム機「Xbox」で使われている「Natal」という技術だ。今年6月に開催されたゲーム見本市「E3」で発表されたものだが、これはまさに私たちケンブリッジが研究したマシンインテリジェンスを利用している。身体の位置や動きをマシンインテリジェンスによって検出し、コントローラーを使わずにゲームを操作する。この技術には非常に誇りを持っている。

 この技術がオフィスのコンピューターに入っていくかどうかは明言できないが、コンピューターとのやり取りを、人とのやり取りと同じようなものにしたい。マウスやキーボードを使うのではなく、ジェスチャーや顔の表情、感情の表現など、いろいろな情報を組み合わせてコンピューターとやり取りできるようにしたい。いつ実現できるかは言えないが、毎日少しずつ、継続的に発展していく技術だろう。

■ほかにマイクロソフトリサーチでの成果の例はありますか?

 この3、4年で開発してきた新しい技術として、オンライン上にある非常に大きなデータセットを分析する技術がある。例えば「Xbox Live」でプレーヤーのスキルを分析する「TrueSkill」と呼ばれるもの。プレーヤーのスキルを24時間365日分析し続けるので、データは数億にも及ぶが、これを高速に分析できる。同じ技術は、オンラインショップでのフィードバックシステムでも使える。誰がどんなものを売っていて、そこで買った人はどんな評価をしているかを格付けしながら、その評価者の信頼性を分析するなど、相互の関係を見ながら分析できる。

 また検索エンジンの「Bing」の部隊とも密接に協力していて、例えば画像検索の技術など、いくつかのアイデアは実際に採用されている。マイクロソフトは、私たちの研究結果を製品に生かすのがうまい。なぜマイクロソフトリサーチで効果的な研究ができるのかというと、製品グループが主導権を持っていないため。それぞれの研究者が独立して、自分の研究したい問題に取り組んでいるからだ。その結果を製品グループが利用するという形になっている。XboxのNatalについても、製品グループがそれを求めたときには、既にマイクロソフトリサーチで10年以上研究されていた。研究段階では特定の製品に生かすことなど考えていなかったが、いざ必要になったときには、かなりの専門知識を積み上げていた。

■本日のレクチャーの中で、1秒に100万通りの組み合わせを考えられるコンピューターでも、25ピースのパズルを完成させるのに500兆年の1兆倍の年数がかかるという話がありました。人間の認識能力に比べ、コンピューターの能力にはまだまだ限界があるのでしょうか?

 人間に比べるとまだまだ大きなギャップがある。子供ができることとコンピューターができることを比べても、子供の方が多くのことができる。机や椅子などの物体を認識する能力で考えれば、今世界で最も能力の高いコンピューターよりも、3歳児の方が優れている。ただ、コンピューターもどんどん進化しているので、5年後や10年後は大きく変わってくるだろう。

 パターン認識は、コンピューターの処理能力自体ではなく、処理能力をどのように使うかが問題。これまではなかなか良いアイデアがなかったのだが、新しいアルゴリズムなどを使ってコンピューターの処理能力を生かせば、実現はできるはず。脳にできるのだから、コンピューターにも可能だと思う。

■レクチャーを通じて、子供たちに何を伝えたいですか。

 コンピューターサイエンスというものは非常にエキサイティングなものだということをまず知ってもらいたい。子供はもともと、電話やコンピューターなど、技術を使うのは得意なものだ。ただ、その技術を使うことと、その背後にある技術を実現する科学というものを理解すること、また将来のより良い技術を作り出すことは異なる。技術を使うだけでなく、作る人になってほしい。デジタル革命というものは始まったばかり。まだまだ新しいエキサイティングなアイデアは出てくる。それを実現するのが子供たちなのだ。