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 年の瀬になると聞こえてくる「第九」の大合唱。作者はもちろん、楽聖ベートーベンだ。「過酷な運命に立ち向かった意志の人」という堅いイメージが強い彼だが、実は「ハイテク好き」の顔を持つことはあまり知られていない。

 「機械でテンポを測るという発想がなかった時代に、発明されたばかりのメトロノームをいち早く採用したり、宮廷機械技師が製作した自動演奏楽器のために曲を書いたりと、ベートーベンは当時の“技術革新”を貪欲に取り入れた」と話すのは、東京大学大学院教授の渡辺裕氏。ベートーベンの作品といえば、彼の内面の表現であり、精神的な営みの結果だと思われがちだが、「それと同時に、ピアノという楽器の機械的な進化とともに歩んでいる。音楽というソフトと楽器というハードは、密接に結び付いていた」という。

 ベートーベンの時代、ピアノはまだ発展途上の楽器だった。より大きな音を出す、細かい連打に対応する、音域を広げるといった新技術が次々と登場し、改良が進んだ。「当時ピアノはハイテクの楽器で、今のパソコンと同じようなもの。ベートーベンはピアノを次々と替えたが、新しい機構のあるピアノを好んで使用したところがある」。

 彼のハイテク志向を顕著に示すのが、足で踏んで音色を変える「ペダル」の使い方だと渡辺氏は指摘する。ベートーベンは1803年に初めてペダル付きのピアノを入手したが、その直後に作られた「ワルトシュタイン」の楽譜には、大量のペダル記号が書き込まれた。ペダルを用いてさまざまな効果を試している姿は、パソコンやシンセサイザーの新製品を手にした現代人が、その新機能を試して楽しむ様子と変わらない。

 「ただし、依然として旧式のピアノや古い音楽観をベースにしていた面もある。そんな古さと新しさのせめぎ合いこそが、彼の音楽の独自性を生み出したのではないか」。