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 スペインのバルセロナで2010年2月15日に開幕する、世界最大級の携帯電話に関する展示会「Mobile World Congress 2010」(以下、MWC)。開催に先立ち、主要な出展予定メーカーの日本法人を取材した。

 米クアルコムは、第3世代の携帯電話方式(3G)のW-CDMAやCDMA2000で使われる基盤技術のCDMAを開発したことで知られる。クアルコムジャパンの広報・マーケティング部長の野崎孝幸氏に、米国本社が2010年に注力する技術について話を聞いた。

■3Gの次を担う技術に対し、どう開発に取り組んでいるのか。

 3Gの次としては、LTE(long term evolution)とDC-HSDPA(dual cell high speed downlink packet access)が 有力とされている。前者は、音声やデータを電波に乗せる方式そのものを根本から改めることで、後者はCDMAと呼ぶ3Gと同じ方式を使いながら、電波を2種類同時に併用することで高速化を図る。いずれかに専念するメーカーも多い中、クアルコムはいずれについても開発を進めているのが特徴だ。よくLTEに対して、通信速度が光ファイバー並みになりバラ色の世界がやってくると評することがある。しかし、話はそう簡単ではない。

 LTEは幅広い帯域を割り当てられる環境下でなら、周波数を効果的に活用でき高速化が可能になる技術だ。実際には、現在の各携帯電話会社が3G向けで使っている帯域は狭い。同じ程度の帯域しか使えないなら、仮にLTEを導入してもユーザー一人当たりの実効速度はDC-HSDPAと大差ない。となれば、現在の3Gの設備を活用でき、追加の投資が少なく済むDC-HSDPAを導入する携帯電話会社が多いのではないか。弊社はそう考える。

 もちろん、長期的に見れば、3GからLTEへ徐々に移行していく動きもある。LTEの採用を早々に決め、広帯域の割り当てを受けた携帯電話会社が、都市部を中心に徐々にサービスを開始する動きも並行して起こるだろう。クアルコムが、DC-HSDPAに対応した通信チップだけでなく、LTEと従来のHSDPAの両方に対応した通信チップの両方を品ぞろえするのは、こうした理由からである。

■LTEは、いつごろ現在の3Gを置き換えるようになるとみるか。

 NTTドコモが、世界で初めてW-CDMAによる3Gサービスを開始したのが2001年。それから約8年が経ったが、現状はどうか。世界的なサービスの提供状況をふかんすると、第2世代(2G)のGSMと3Gがいまだに混在している状態だ。LTEも同じ道をたどることになると見ている。

 興味深い情報を、LTEの早期採用に踏み切る米ベライゾンワイヤレスが公表している。同社は、2013年までに現在の3Gサービスと同様のエリアカバーを実現することを目指している。下り用と上り用にそれぞれ10MHzを割り当てる予定で、この場合ユーザーの平均実効速度は下りが5M~12Mビット/秒、上りが2M~5Mビット/秒を見込むとしている。つまり、現行のHSDPAなどと比べても飛躍的にスピードが上がるわけではないことを、自ら明らかにしているわけだ。3Gと2Gが混在する現状と同じく、LTEが始まっても3Gが息長く提供され続けることになるだろう。

■中長期的な開発のテーマとして何を掲げているのか。

 ユーザー宅などに設置する小型基地局のフェムトセル関連についてだ。SON(self organizing network)と呼ぶ、携帯電話会社がフェムトセルの導入をしやすくする技術の開発に取り組んでいる。フェムトセルは、ユーザーごとの実効速度を底上げするものとしてここ数年話題になっているが、普及が遅れている。その原因は、携帯電話の根本的な仕組みに悪影響を与える懸念があるためだ。基地局の電波が届いてるエリア内で、同じ周波数を使うフェムトセルを設置すれば、基地局と電波が干渉し合ってしまう。現在の携帯電話サービスは、一局ごとがカバーするエリア(セルと呼ぶ)が重ならないようにエリアを展開しているからこそ、干渉が起こらない。

 NTTドコモが2009年にフェムトセルの設置サービスを始めているが、設置に当たり同社のエンジニアが一軒一軒自宅を訪ね、慎重に干渉についてチェックしていると聞く。このままでは本格的な普及まで時間がかかってしまう。そこで注目しているのがSON。周辺にある基地局とのハンドオーバーや干渉を制御するといった調整を自動的に行う技術である。結果として、フェムトセルは、設置するだけですぐに使えるようになる。

 現在弊社は、SONの開発に取り組んでおり、3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)と呼ぶ団体でも標準化が進んでいる。近い将来実用化すれば、フェムトセルの本格的な普及につながるはずだ。

■ほかに、開発に力を注いでいる技術としてどんなものがあるか。

 携帯電話機上で各種アプリケーションを動作させるプラットフォーム「Brew」だ。米グーグルのAndroidなど、ライバルのプラットフォームが続々と登場し、Brewの影がすっかり薄くなってしまった印象を持つかもしれない。しかし2010年、Brewは大きく進化する。1月に最新版のBrew Mobile Platform(Brew MP)を発表し、機能性を高めた。現在スマートフォンは、Androidのような高価格で機能が多い製品が中心だが、今後は通常の携帯電話機に近い、機能が少なく価格も安い製品も登場し一定のセグメントを形成すると弊社は見ている。市場の大半を占めるのは後者だろう。生まれ変わったBrewは、こうした製品を支える役割を果たす。

 例えば米AT&Tは、低価格なスマートフォンを「クイックメッセージングデバイス」と位置づけ、全面的にBrew MPを採用することを表明済みだ。同じような戦略で、マスマーケットを狙う携帯電話会社は多いのではないか。こうした需要に向けて、ぜひBrew MPの採用を働きかけたい。

 ほかにも、マルチメディア配信プラットフォーム「MediaFLO」や通信機能を内蔵するCPU「Snapdragon」といった独自技術も積極的に開発している。MediaFLOは、次世代の放送技術で、多チャンネルのテレビ放送が視聴できるほか、適時映画やドラマ、音楽などを1本ずつ送り届けたり、ニュースや天気情報といったデータをリアルタイムに配信したりできる。すでに国内では、沖縄県や島根県で、総務省が推進する「ユビキタス特区」に認定されたプロジェクトで実験を進めている。

 一方Snapdragonは、無線LANやBluetooth、GPS、グラフィックス機能をオールインワンで備えた統合チップセット。最大の特徴は、W-CDMAやCDMA2000の携帯電話の通信機能も内包している点にある。米グーグルが1月に発表したスマートフォン「Nexus One」や、英ソニーエリクソンモバイルコミュニケーションズの「Xperia」に採用され、着実に搭載機種が増えている。今後は、携帯電話とパソコンの中間を埋める、7~10型程度のディスプレイを備えた小型情報機器(スマートブックなどと呼ばれる)でも採用される例が増える見込みだ。