従来のユーザーと今のユーザーに訴えかけるカメラ
とにかく小さいデジタル一眼。その苦労とこだわりは細部にも宿る。例えば、カメラの顔ともいえる「PENTAX」のロゴは、金型で形を作り、インクを流し込むのだが、ロゴがあまりに小さく、へこみも浅いため、文字の角が出しにくかったのだという。「特にAやXは角が丸くなってしまい、全体に文字が小さくなってしまうので苦労しました」(林氏)。
ボディやレンズに使うフォントも新しく作った。当初は、林氏が同社の監視用カメラや検査用カメラのレンズ用に作ったフォントを使う計画だったが、実際にPENTAX Qのボディやレンズに載せてみると、文字と文字のスペースが均等にならなかったり、特定の数字だけが小さく見えたりしてきれいに見えなかった。「それでも、フォント自体はPENTAX Qの個性に合う。これを使いたい」ということで、元のフォントをベースにすべて作り直したのだそうだ。
冒頭に述べたように、最近のペンタックスからは、他社とは違う、独自のカメラを打ち出そうという気概のようなものを感じる。それについて若代氏は、「ユーザーのニーズが多様化した今、他社と同じようなものを作っても仕方がないという意識は常にありますね」と答えた。そのうえで、「だからといって、全然違うデザインばかりやっていこうということではないんです」と言葉をつなぐ。「当たり前ですが、大切なのは、従来のペンタックスユーザーにも満足してもらいつつ、新しいユーザーのニーズにも応えることです」(若代氏)。
PENTAX Qは、この考えを象徴するものなのかもしれない。Auto 110は、小さなボディに豊富なレンズ、アクセサリーが楽しく、カメラ好き、メカ好きに愛されたカメラだった。PENTAX Qは、そのAuto 110にインスピレーションを受けながらも、女性や若者など幅広いユーザーのニーズに応えるべく作られている。従来のペンタックスの伝統を受け継ぎつつ生まれた、今の時代の製品なのである。