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 グラフィックスボードなどを手がけるLeadtek Researchの日本法人であるリードテックジャパンは2008年11月中旬に、「SpursEngine(スパーズエンジン)」を搭載した動画エンコード支援ボード「WinFast PxVC1100」を発売する。予想実勢価格は3万円前後の見込み。日経WinPCはその評価用ボードを入手、ベンチマークで実力を検証した。

 SpursEngineは、IBM、ソニーグループ、東芝が共同で開発した「Cell Broadband Engine」をベースにした東芝製のプロセッサー。演算コア「SPE」を4個とMPEG-2とH.264のデコーダーとエンコーダーを内蔵しており、ハイビジョン映像を超高速に処理できる。東芝は、自社のハイエンドノートPC「Qosmio」の一部モデルでSpursEngineを採用。録画したテレビ番組の中から人物の顔を抽出して時系列で並べる機能や、DVDタイトルをハイビジョン画質に変換する機能で利用している。

 WinFast PxVC1100は、SpursEngineと128MBのXDR DRAMを搭載したPCI Express x1の拡張ボードだ。ボードは背が低く、付属の専用ブラケットによりロープロファイルのPCケースにも取り付けられる。演算チップを搭載しているだけなので、端子類は一切無い。ファンは拡張スロット1本分に収まるコンパクトなタイプ。温度により回転数を自動で制御するという。

専用バージョンのDVD MovieWriterが付属する

 SpursEngineを利用するには、同チップを使うように作られたソフトウエアが不可欠だ。WinFast PxVC1100にはコーレルのオーサリングソフト「DVD MovieWriter」の専用版が付属する(再生ソフトとして「WinDVD」も付属)。市販のDVD MovieWriterはバージョン7が最新版でBlu-ray Discのオーサリングにも対応しているが、付属版はバージョン5がベースでBDには対応しない。

 WinFast PxVC1100と付属のDVD MovieWriterでは、以下の処理などでSpursEngineが使われる。

  • ハイビジョンのMPEG-2形式とH.264形式の相互変換
  • SD解像度のMPEG-2形式やH.264形式を「超解像」処理でハイビジョンへ変換
  • プロキシーファイル(ハイビジョン動画の編集負荷を下げるために使う一種の中間ファイル)の生成
  • DVDオーサリング時のエンコード

 このうち上位2つが本製品の大きな売りとなっている。ただ、付属のDVD MovieWriterは、あくまでもオーサリングソフト。ハイビジョンの動画ファイルを読み込んだとしても最終的にはDVD-Video/DVD-VR/DVD+VRの形式でSD解像度の映像データとして書き出すことになる。ハイビジョン映像の書き出しは、映像ソースを読み込む画面の「選択したクリップをエクスポート」で行う。

 このメニューでは、映像データを352×480ドット/2.8Mbps~720×480ドット/7.2MbpsのSD解像度のほか、1920×1080ドットや1440×1080ドットのMPEG-2形式やH.264形式で書き出せる。ソースが480×480ドットから720×576ドットのMPEG-2かH.264の場合は「超解像(Super Resolution)」処理も選べる。演算による補間で高画素化する処理で、単純に拡大するのに比べてシャープでクリアな映像が得られるという。

 これらの処理がSpursEngineでどの程度高速化されるのかを調べた。テストに使用したパーツ構成は以下の通りだ。

  • 【CPU】Pentium Dual-Core E5200(2.5GHz)、Core 2 Extreme QX9650(3GHz)
  • 【マザーボード】P5K(ASUSTeK Computer、Intel P35チップセット搭載)
  • 【メモリー】DDR2-800 1GB×2
  • 【HDD】Deskstar P7K500 500GB(日立グローバルストレージテクノロジーズ)
  • 【OS】Windows Vista Ultimate Service Pack 1 32ビット日本語版
    •  付属のDVD MovieWriterの設定画面でSpursEngineを無効にすると、ハイビジョン動画への変換や超解像処理がメニューから消えてしまう。必ずハードウエアとセットで使うソフトウエアだけに、妥当な仕様ではあるのだが、CPUのみで処理した場合とSpursEngineで処理した場合の性能比較ができない。そこで、DVD MovieWriterの最新版であるバージョン7の同じ機能を使って性能を比べることにした。バージョン7では、書き出すディスク対象としてBDを選択すると、「選択したクリップをエクスポート」で1920×1080ドットのH.264形式などが選べる。SpursEngineには非対応であり、CPUだけで変換処理を実行する。

       映像ソースはソニーのHDVカメラで撮影した1440×1080ドット、1分間(1800フレーム)のMPEG-2ファイル。これをH.264形式で書き出した。ビットレートは最大18Mbpsの可変(付属のDVD MovieWriterの標準設定)で、音声は384kbpsのDolby Digitalにしている。その結果がグラフ1だ。グラフ中の「SpursEngine」が、付属のDVD MovieWriterでハードウエアアクセラレーションを有効にしたときに処理に要した時間、「CPU」はDVD MovieWriter 7での処理時間を示している。かっこ内はCPU名だ。

      最速クラスのCPUより3倍速いSpursEngine

       見ての通り、SpursEngineでの変換処理は非常に速い。低価格機向けのCPUであるPentium Dual-Core E5200ではおよそ5.3倍。フラッグシップのCore 2 Extreme QX9650と比べても2.9倍ほど速い。Core 2 Extreme QX9650は現在、Core 2 Quad Q9650として6万円前後で販売されているが、この動画形式の変換においてはWinFast PxVC1100の価格性能比が抜群に高いと言える。

       限られた映像ソースでの判断ではあるものの、画質もSpursEngineによる処理の方が良いような印象を受けた。ただし、ビットレートや音声の形式など、設定可能な表面的なパラメーターを同じにしたにもかかわらず、WinFast PxVC1100で処理したファイルの方が容量は大きかった。ビットレート割り当てのアルゴリズムが異なるためかもしれない。

       SD解像度のハイビジョン変換の処理性能も調べた。ソースは720×480ドット、1分間のMPEG-2ファイルだ。グラフ2がその結果だ。Pentium Dual-Core E5200を使ったときは、依然としてSpursEngineが速いものの、QX9650では逆転しているように見える。これは、CPUのみで処理したDVD MovieWriter 7での変換が、負荷の低い単なる拡大であるためだ。

       SpursEngineでは超解像処理を行っており、画質には一目で分かる違いがある。単なる拡大処理の映像は細部がぼやけ、斜めの線にギザギザ(ジャギー)が見られるのに対し、超解像処理では解像感が向上して、粗さが抑えられていた。CPUのみでは、超解像処理をできないため、同一条件での比較にはならなかったが、少なくとも低価格帯のCPUとの組み合わせではSpursEngineの処理性能に十分な優位性がある。

      ソフトウエアの制限により、用途は限られる

       H.264形式のハイビジョン映像は、現在の最速クラスのCPUを使っても、軽快に編集、出力(エンコード)するのが難しい。WinFast PxVC1100はその状況を打破する実力を持っていると言えるだろう。しかし、現在のバージョンの付属ソフトではいくつかの制限があり、用途が限られてしまう。特に大きいのは、読み込んだ動画を編集してしまうと、ハイビジョン形式での出力が一切できなくなってしまう点だ。

       付属のDVD MovieWriterは、最新版のバージョン7やそのほかの動画編集ソフトと比べて簡易とはいえ、動画ファイルをカットしたり、テキストや特殊効果を挿入したりする機能を備えている。ところが、読み込んだクリップに対してこうした編集をすると、「選択したクリップをエクスポート」からハイビジョン形式での出力項目が消えてしまう。SD解像度の動画でも、編集すると超解像処理で出力できなくなる。

       ハイビジョン形式の動画ファイルをSD解像度に落とすときにもSpursEngineの効果があるのかと思い試したが、Pentium Dual-Core E5200のシステムでも、SpursEngine有効時と無効時の性能差はほとんどなかった。現状のソフトウエアの仕様だと、SpursEngineの実力を生かせるのは、事実上、単一のハイビジョン動画ファイルの形式を相互に変換するか、SD解像度のMPEG-2ファイルに超解像処理を施すときだけ。ハイビジョンカメラで撮り溜めた映像データの編集負荷を軽減したいという人には向かない。汎用の高速なエンコードボードとして使いたい人は、他社製も含めた対応ソフトウエアの充実を期待するしかない。既に手元にある、大量の完成したハイビジョンコンテンツをH.264やMPEG-2に変換したい人なら、変換の速さは魅力だろう。

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