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 Blu-ray Disc(BD)への私的録画補償金賦課を盛り込んだ改正著作権法施行令が、2009年5月22日付で施行された。

 文化庁は同日、関係団体向けに施行通知を送付。アナログチューナーを搭載していないレコーダーが出荷された場合に、補償金の徴収に関してメーカーの協力が得られなくなる可能性に触れ、経済産業省と文部科学省が「このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており、今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合には、政令(著作権法施行令)の見直しを含む必要な措置を適切に講ずる」と表明した。

 メーカー側の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)も同日、BD課金の実施を受け声明を発表。「引き続き補償金の徴収に協力する」と表明する一方、文化庁から送付された施行通知の全文をWebサイトで公開。施行通知から今後の見直しに関する記述などを引用しつつ、アナログチューナーを搭載しないDVD/BDレコーダーが既に発売されていることを踏まえ、今後政令の見直しによりデジタル放送専用のDVD/BDレコーダーへの補償金賦課を廃止すべきとの立場を改めてアピールしている。

ダビング10とセットで昨夏決定も、施行まで紆余曲折

 BDへの補償金賦課は、2008年6月の経済産業相・文部科学相会談で決定。地上デジタル放送のコピー制御方式をそれまでの「コピーワンス」から「ダビング10」に緩和するのに併せ、権利者へ補償するための施策として導入を決めた。その後文化庁は2009年2月、BD課金に関する規定を追加した著作権法施行令の改正案を公表し意見募集(パブリックコメント)を実施した。この時点では、文化庁は4月1日に施行する意向を表明していた。

 このパブリックコメントにおいてJEITAは、(1)未解決の無料デジタル放送の録画に課金しないことを明記する、(2)失効規定を追加するなどして、BD課金が暫定措置であり恒久措置でないことを明記する、(3)対象となるBD機器・媒体を技術的に特定するようレーザー波長とレンズ開口数を記載する、という3項目を盛り込むよう表明していた。一方の権利者団体は、(4)現行制度は放送波をデジタル方式で録画できることが要件であり、放送波がデジタルかアナログかは補償金の賦課に無関係、(5)デジタル放送に対するダビング10実施とセットでBD課金が決定された以上、BD課金は当然デジタル放送を対象に含む、と反論していた。

 文化庁はJEITAの意見を受け、当初の4月1日施行を延期し経産省と協議。その上で5月1日、(3)を盛り込んだ上で著作権法施行令を5月22日に施行することを明らかにした。ただし、政令レベルの著作権法施行令を直接修正する形ではなく、省令レベルの「著作権法施行規則」を追加で制定するという形で記載した。

文化庁が送付の「施行通知」、3つのポイント

 そして今回、文化庁は改正著作権法施行令の施行に併せて、「著作権法施行令等の一部改正について(通知)」と題する施行通知の文書を、高塩至次長名義で各関係団体に送付した。ポイントは3点ある。

 第一は、2008年6月の経産相・文科相会談で、ダビング10とセットでBD課金の導入を合意した背景についてである。「平成20年6月当時に製造・出荷されていたブルーレイ・ディスクレコーダーがアナログチューナーを搭載しておりアナログ放送のデジタル録画が可能であったため、ブルーレイ・ディスクを政令に追加したとしても、関係者の意見の相違が顕在化することはなく、また、文化審議会著作権分科会の審議事項に抵触することもない、との認識に基づくものである」として、当時の状況を踏まえて妥協点を探った結果であったと説明している。

 第二は、アナログ放送のチューナーを内蔵しないDVD/BDレコーダーの扱いについてである。「アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合、及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては、関係者の意見の相違が顕在化し、私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は、このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識」していると明記。デジタル放送への補償金課金についてメーカー側は、「デジタル放送はDRMにより複製回数が有限に設定されており、権利者の想定を超えて複製物が広がる恐れがないので補償の必要もない」との主張を一貫して唱えている。こうしたメーカー側の主張を、経産省・文科省とも認識していると表明したものである。

 第三は、著作権法施行令の今後についてである。「今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合には、その取扱について検討し、政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている」とし、将来の見直しの可能性に言及している。ただし、見直しの方向性など具体的な内容には踏み込まず、上述(1)(2)のメーカー側の主張に沿う形の見直しであるか否かは明示を避けている。

 なお、施行通知は法令の枠組みに含まれないもので、著作権法施行令や著作権法施行規則より法的拘束力が弱まったものとなっている。上述の内容を公表するに当たり、文化庁が施行通知を選んだのは、メーカー側の主張に配慮しつつ権利者側の反発を招かないよう、双方に配慮したためとみられる。

 この施行通知を受けJEITAは、5月22日付で声明を発表。「今般の施行令・施行規則においては、この(上記(1)~(3)の主張の)うち(3)を取り入れていただきましたが、(1)と(2)につきましては、本日の施行通知でそれに対するご回答をいただいたと理解しております」とした上で、「文部科学省と経済産業省の両省が、JEITAの申し上げた問題点を十分に勘案され、今般の通知に至ったことをJEITAとして高く評価するものです」としている。声明ではまた、今後について「施行通知に従った適切な措置が講じられることを期待するとともに、私どもも、関係者と問題解決に向け真摯に取り組む所存です」とし、今後もアナログ非対応のDVD/BDレコーダーについて補償金の対象から除外するよう求めていく姿勢を示している。

メーカーはアナログ非対応機で補償金徴収を拒否、権利者側は「訴訟も辞さない」

 上述のように、文化庁の施行通知には「今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合」について言及がある。しかし実際には、この施行通知が送付された時点で、関係者の意見の相違は鮮明になっている。シャープのBDレコーダー「BD-AV10」「BD-AV1」や東芝のDVDレコーダー「RD-G503」「RD-E303」、パナソニックのDVDレコーダー「DMR-XE1」など、アナログチューナー非搭載の製品は既に複数機種販売されている。各社はこれらの製品について私的録画補償金を徴収していない。既にメーカー側は、こうした方針を私的録画補償金管理協会(SARVH)にも通知済みだ。「メーカー側は補償金について徴収の協力義務を負っているので、『協力義務を果たせないけれどどうしよう』という相談をしている」(JEITAの長谷川英一常務理事)。

 既に導火線に火が付いた状態となっているが、話し合いによる解決は望めないのが現状である。2006年から補償金問題の議論を続けてきた文化審議会 著作権分科会 私的録音録画小委員会は、2008年12月で解散済み。文化庁は同小委の代わりに、2009年度は補償金に直接携わる関係者を集めた懇談会を開催する方針を打ち出しているが、現時点でメーカー側、権利者側ともに「日程や人選などについて、文化庁から声は掛かっていない」と口をそろえており、暗礁に乗り上げている。JEITAとSARVHの話し合いはあるものの、「SARVHの構成員にはJEITA出身者もいるため、SARVHは特に権利者側を代表しているわけではない」(実演家著作隣接権センターの椎名和夫運営委員)。メーカー側も、「SARVHと協議をしているのは事実だが、SARVHもJEITAも基本的には法令の枠組みに沿って徴収代行や配分などの実務をする位置付け。今後の制度のあり方については、施行通知にあるように経済産業省と文部科学省で何らかの判断を示していただけるだろうと考えているし、今はそれを待つしかない状態」(長谷川氏)としている。

 JEITAの主張に沿う形で各メーカーが実力行使したことに、権利者側は強く反発している。権利者側は2009年2月5日に開催した会見で、「一部メーカーが、アナログチューナー非搭載のDVDレコーダーについて、補償金の対象にならないという考えを持っているとの話を聞く。万一それが事実ならば、明確な法令違反として法的措置も辞さない」(椎名氏)と明言していた。椎名氏は今回のJEITA声明を受け、日経WinPCの取材に対し「施行通知にはあまり興味がない。基本的には政令に何が書かれているか、メーカー側が現行制度を順守するかどうかに注目している」と表明。その上で今後について、「どういう方法があるかと考えたときに、訴えるという方法も選択肢に入っている。メーカー側がのらりくらりと時間稼ぎをすれば、権利者の経済的利益がそれだけ侵される」として、メーカー側の対応次第では訴訟も辞さないとの考えを改めて強調した。

 一方で椎名氏は、「権利者はメーカー側と対立することや、そこでの勝ち負けにこだわっているわけではない。私的複製について世の中の人たちがどの程度許容してほしいと望んでいるか、そこで決めた私的複製の枠組みに法制度でどのような手当てをするか。この問題をクリアにしないと、補償金をめぐる問題は先へ進めない。権利者はもとより、メーカーも安心して機器が作れないし、ユーザーも安心して私的複製ができないだろう。補償金以外の著作権関連の議論を進めていく上でも、補償金をめぐる問題をクリアにすることが重要な意味を持っている」と語り、メーカー側との対立や法廷論争ではなく、将来の私的複製のあるべき姿を明確にすることが本質だとの見解を示している。