文化庁長官の諮問機関で、著作権法や関連法令の規定について議論する文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会の2010年度第1回会合が、2010年2月18日に開催された。2009年度の法制小委から継続審議となっている著作権の権利制限の一般規定(いわゆる日本版フェアユース)について、「導入の必要性があるという前提で議論をしていく」ことで合意した。今後の法制小委の議論では、条文上は侵害となるものの実質的に権利者に被害を及ぼさない、いわゆる「形式的権利侵害行為」の範囲をどのように定めるか、形式的侵害を超える範囲をどの程度対象とするかなど、適用範囲の広さが焦点となる見込み。
この日の会合では、法制小委の下部組織である「権利制限一般規定ワーキングチーム」(WT)がまとめた報告書について、各章の内容について委員から意見を求める形で進行。2つある章のうち「権利制限の一般規定を導入する必要性について」の章ではほとんど意見が出ず、土肥一史主査(一橋大学教授)が「一般規定は導入の必要性があるという前提で議論をしていくということで良いか」と呼びかけ、全会一致で承認された。一方、「仮に権利制限の一般規定を導入するとした場合の検討課題について」の章では、報告書の記述に対しWTに不参加の委員が質問を出し、WTのメンバーであった委員が回答するという形で進行した。
報告書では、一般規定の適用を考えるためのモデルケースとして、以下のA~Cの3つの類型を提示している。
類型Aは「その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」。具体的には、写真や映像を撮影している際、芸術作品などがフレーム内に入ってしまうという「写り込み」などが該当する。
類型Bは「適法な著作物の利用を達成する過程において不可避的に生ずる当該著作物の利用であり、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」。具体的には、音楽CDの制作過程でマスターテープに録音する行為や、教科書の制作過程で原稿を複製する行為などを指す。
類型Cは「著作物の表現を知覚するための利用とは評価されない利用であり、当該著作物としての本来の利用とは評価されないもの」。具体的には、映画や音楽の再生技術を開発・検証するため、素材の1つとして必要な範囲で録音・録画する行為などを挙げている。
この日の会合では、A~Cの3類型の想定する範囲などについて、複数の委員から質問が出た。一方、質問に関連する形で意見を表明する委員もいたが、土肥主査は「具体的な議論は今後の会合で行うようにしたい」として、具体的な議論へ踏み込まないようにしていた。
日本版フェアユースをめぐっては、政府の知的財産戦略本部が2009年6月に策定した「知的財産推進計画2009」において導入を検討する項目として挙げられており、「規定振り等について検討を行い、2009年度中に結論を得て、早急に措置を講ずる」と、期限を区切る形で明記されている。このため、3月末までの期限内に中間取りまとめを確実に策定できるよう、この日の会合では具体論に踏み込んで議論が紛糾するのを防いだとみられる。
今後の法制小委では、この日までの議論を盛り込んだ形で、一般規定について「導入を前提」として3月をめどに中間とりまとめを作成する。その後、2010年秋をめどに具体的な制度設計について議論していく。ただし、一般規定の適用範囲をどの程度と設計するかは積極派と慎重派の委員間で意見の隔たりが大きく、今後の議論で合意に達し法改正にたどり着くかは未知数だ。