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 NVIDIAの創業者にして同社最高経営責任者(CEO)のジェンスン・ファン(Jen-Hsun Huang)氏は「COMPUTEX TAIPEI 2010」の開催直前の2010年5月31日、台湾・台北市でアジア地域の報道関係者向けに会合を開き、業界の最新動向や同社の取り組みを紹介した。同氏が最も注目しているのは「iPad」の登場により爆発的な広がりが期待されるタブレット端末(スレート型端末)と、NVIDIAが5年以上も積極的に取り組んできた立体視(3D)表示技術の2つだ。

アジア地域の報道関係者からの質問に答える、NVIDIAのジェンスン・ファン最高経営責任者。
アジア地域の報道関係者からの質問に答える、NVIDIAのジェンスン・ファン最高経営責任者。
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 ファン氏は、近い将来、タブレット端末市場が既存のパソコン市場を超えるほど大きくなると見る。その最大の理由として「iPhoneやiPadで、コンテンツ中心、アプリケーション中心の操作性のすばらしさに人々が気付いてしまったから」と説明する。見たい本やビデオタイトルのアイコンをタップ(クリック)するだけで、すぐにそのコンテンツが楽しめるというシンプルかつ直感的な操作性からは後戻りができなくなる、というわけだ。

 とはいえ、ファン氏もパソコン市場がこのまま収縮するとは思っていない。「パソコンは今後、ビデオコンテンツ編集など、よりクリエイティブな用途に使われ、単にコンテンツを楽しむのならタブレット端末というように分化していくだろう」と言う。特に、タブレット端末はシニア層や子どもといった、これまでパソコンが浸透できずにいた年齢層にも普及するとみられており、これがタブレット端末市場を爆発的に広げる素地となると考えている。

 ただ、タブレット端末には課題もある。コンテンツの楽しみやすさや操作性を追求すれば、より性能の高いプロセッサーが不可欠となる。一方で、より長いバッテリー駆動時間も求められる。IT業界、特に半導体メーカーは、この相反した要求をいかにして実現していくかが重要になる。

 NVIDIAは携帯型端末向けプロセッサー「Tegra」で、この市場に切り込む。Tegraは、ARMコアやグラフィックスコア、メディアプロセッサーなどを1チップに統合した製品。これらを動的に制御することで優れた性能と省電力性を両立したという。同社は初代Tegraのグラフィックス性能を高めるとともに、ARMの「Cortex-A9 MPCore」と「ARM 7」を内蔵した「Tegra2」のサンプル提供を始めている。Tegraでは「Flash 10.1」でグラフィックスコアによるハードウエアアクセラレーションを実現し、CPUの負荷を大幅に低減できる。

Tegraは「Flash」のハードウエアアクセラレーションに対応。再生時の消費電力を大幅に低減できる。
Tegraは「Flash」のハードウエアアクセラレーションに対応。再生時の消費電力を大幅に低減できる。
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現在、端末メーカーなどで搭載製品開発が進められているTegraは、GeForceベースのグラフィックス機能と、ARMの「Cortex A9 MPCore」と「ARM 7」の2個のCPUを搭載する。
現在、端末メーカーなどで搭載製品開発が進められているTegraは、GeForceベースのグラフィックス機能と、ARMの「Cortex A9 MPCore」と「ARM 7」の2個のCPUを搭載する。
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 同社のタブレット市場における成功の鍵を握るのは、ハードウエアではなく、アプリケーションやソリューション開発にかかっていることも、同氏は認識している。「AppleがiPhoneやiPadで成功を収めたのは、単一プラットフォームによる垂直型統合を図ったためだ」と分析する。ハードウエアとユーザーインターフェースを透過的に開発し、アプリケーション開発も単一プラットフォームに絞り込んだため、非常に短い期間で面白いアプリケーションやコンテンツが充実したことが、パソコンに興味が無いユーザーの掘り起こしにも役立ったと考えているからだ。

 そこで、ファン氏は今後のタブレット端末市場においてGoogleの「Android」に注目する。iPhoneやiPadはAppleのプラットフォームでしか使えない。そのことがソフトウエアを意識せずにコンテンツを楽しめる環境を生み出すことになったのは事実だ。しかし、コンテンツプロバイダーやアプリケーション開発者を完全な垂直統合型ビジネスに封じ込めるAppleのアプローチでは、NVIDIAが入り込む余地は少ないと見る。ファン氏は、Appleの「iOS」に近い単一性を持ちながらオープンプラットフォームを志向するAndroidに、Tegra搭載タブレット端末の可能性を見いだしたようだ。同氏は、現在Googleと密接にアプリケーションやハードウエア開発を研究しているとしており、NVIDIAのTegra2を搭載した製品を手できる日も近そうだ。