トレンドマイクロは2010年7月7日、東京都港区にて自社主催のセキュリティイベント「Direction 2010」を開催した。最新の脅威やセキュリティ対策の最前線をセミナー形式で説明し、トレンドマイクロおよび協賛各社の関連製品を展示・紹介するイベントである。
本イベントの基調講演に、トレンドマイクロ社長兼CEOのエバ・チェン氏が登壇。「現在、IT業界全体がイノベーションの真っただ中にある。その技術的な中心がクラウドだ。強力な演算能力がクラウドを通じて提供され、ITベンダーはさまざな企業や団体とどのように連携・協力すべきかを真剣に考えなければならなくなっている。この進化に合わせて、セキュリティに対する考え方も大きく変える必要性が生じている。なぜなら、これまでの対策が役に立たなくなってきているからだ」と警鐘を鳴らした。
同氏は、現在を「ハイブリッドクラウドの時代」と呼ぶ。クライアントサーバー型のシステムとクラウドシステム、仮想環境と物理環境、伝統的なアプリケーションとWeb APIを活用したクラウドアプリケーションなど、新旧のシステムが入り混じり共存している時代、との意味だ。
「既存の環境からハイブリッドクラウドの環境に移行することで、セキュリティは境界線のある世界から、境界線のない世界へと導かれる」とエバ氏は言う。大切なデータやアプリケーション、またはコンピューターがどこに存在しているのか、その物理的な場所の特定が難しくなるという意味だ。これにより、「インターネットと社内システムの境界にファイアウオールを設置し、主に外から内への攻撃をケアしていた従来のセキュリティ対策だけでは、クラウド上のデータを守ることはできない」(エバ氏)。暗号化や認証など、クラウド内に保存したデータの安全性やプライベート性を保証する対策が必要になるのだ。
クラウドによって境界線のないネットワークが構築されると、1台のクライアントパソコンおよびある企業の1人の社員が、ネットワーク全体に与える影響も大きくなる可能性があるという。あるユーザーがウイルスに感染した場合、そのウイルスがクラウドシステム全体に悪影響を及ぼしてしまうかもしれないのだ。このため、「企業は、従来の外から内の攻撃だけではなく、内から外への攻撃も今以上にケアしなければならなくなる」(エバ氏)。
エバ氏はウイルスに関しても、これまでの対策方法の限界を指摘した。「現在、1.5秒ごとに新しい不正プログラムが発生している。こうした状況の中、検体を入手してパターンファイルを作成する、という従来の対策方法では対応しきれなくなっている」。そこで、同社は「Trend Micro Smart Protection Network」と呼ぶ機能を提供しているのだという。クラウド上に張り巡らせたセンサーを使って、不正なプログラムを検知。その挙動などを解析し、パターンファイルの配信よりも早く、防御するための対策方法や情報をクラウドを通して各パソコンに知らせ、パソコン側でブロックする機能である。
「インターネットの状況は刻一刻と変わっている。今後も、変化を瞬時にとらえ、その状況に合った最適のセキュリティソリューションを提供していきたい」とエバ氏は締めくくった。