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 2011年6月、準天頂衛星「みちびき」(注)が測位信号の提供を開始する。宇宙のインフラを基に、位置情報をデジタルで一段と活用できるようになる。位置情報の活用に当たっては、平時のビジネス応用と並び、災害など緊急時の利用が検討されてきたが、実際の災害時にはどのような位置情報が、どう利用されたのだろうか。5月に開催された「第9回 衛星測位と地理空間情報フォーラム」において、「東日本大震災における地理空間情報技術の貢献」の講演を行った東京大学 空間情報科学研究センター 柴崎亮介教授に、地理空間情報を震災対応や復興支援に活用した事例と、その課題について聞いた。

そもそも地理空間情報とはどのようなものでしょうか?

東京大学 空間情報科学研究センター 柴崎亮介教授。地理情報システム(GIS)の構築や活用に関する研究活動を行う。宇宙開発戦略本部における準天頂衛星に関する検討会「準天頂衛星開発利用検討ワーキンググループ」主査を務める。2011年5月、SPAC(財団法人 衛星測位利用推進センター)主催による「衛星測位と地理空間情報フォーラム」にて、東日本大震災における地理空間情報の活用事例と課題を紹介する講演を行った。 (写真:小林 伸)

 地図に重ね合わせられるようにちゃんと位置合わせした情報は、どれも同じように扱えます。それを地理空間情報と呼ぶわけです。例えば航空写真も地図に重ね合わせられるので、地理空間情報ということになります。その場所が今どうなっているのか、という情報を知るためには、位置合わせが正しくされていないといけない。被災地を写した写真があったとしても、「この流された家の写真はどこなのか分かりません」では、まるで意味がないですよね。地図に重ね合わせることができて初めて意味ある地理空間情報になります。

東日本大震災で地理空間情報が活用された事例にはどのようなものがありますか?

 今回の震災が阪神淡路大震災の時と違うのは、地図に重ね合わせられる非常に精度の高い航空写真がどんどん出てきているということです。撮影時にGPSで正しく位置が分かっていますし、どちらを向いているかもIMU(慣性姿勢計測装置:加速度計とジャイロを用いて物体の姿勢、傾きの変化を計測する機器)で分かります。撮ったらすぐに、ソフトウエアを使って全自動で重ね合わせができる。それを、数年前のものと比較することによって、どういった被害が出てきたかということをかなり詳細に確認できます。

 復旧・復興のためには、罹災証明をどう早く出すか、また保険金の支払いを迅速に行うか、ということが重要になります。図1の写真は、大船渡市の一部です。防災科学技術研究所が被災地の現地に入って、写真とゼンリンの住宅地図を重ね合わせた情報を出したもので、これを損害保険協会や各地の市役所が使う。写真で見ると、残っている家と流出してなくなった家が明確に区別できるので、罹災証明の発行が容易になります。罹災証明がないと義援金も受けられないし、保険金ももらえない。流出していれば、明らかに全壊であり住めないことは一目で分かりますから、保険金もすぐもらえる。

図1
岩手県大船渡市で撮影された航空写真と、住宅地図(白線)を重ねた情報。住宅の存在していた場所が写真ではがれきとなっていて、津波の被害を受けたことが分かる。こうした情報を罹災証明の発行にも役立てることができる
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 もちろん、これが万能というわけではありません。周りはかなり流されてなくなっているのに残っているように見える家があるとします。でも、屋根だけが残っていて柱や壁はなくなっているという場合がある。これは本当は全壊なんですね。写真だけではそれは分からないので、そういった限界はあります。ですからこれだけ見て、全ての被害住宅に罹災証明が出せるというわけではないのです。

 ただ、今までの災害では、家が壊れてもいないのに罹災証明は発行されるといったことにならないよう、市役所が必ず現地に全部チェックに行く必要がありました。それには大変な時間がかかるわけですが、この「写真+住宅地図画像」を利用すれば、その時間を短縮できます。そもそも市役所の方も被災していて人手が足りないわけですから、できることからどんどんやろうというと、こういうものが必要になります。

(注)準天頂衛星システムとは、日本のほぼ真上を通る軌道を持つ人工衛星を複数機組み合わせた衛星システムのこと。補強信号の送信等により、これまでの10m程度の誤差だったGPSに比べて、1m程度からcm単位での測位精度を目指している。準天頂衛星が日本の天頂付近に常に1機以上見えるようにするためには、最低3機の衛星が必要であり、「みちびき」はその初号機。準天頂衛星システムの第1段階として技術実証・利用実証を行い、その結果を評価した上で4機の準天頂衛星によるシステム実証を実施する第2段階へ進むことになっている。