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 コンピュータ利用教育学会(CIEC)と全国大学生活協同組合連合会は2012年8月4日、京都大学において「2012 PCカンファレンス」を開幕した。教育分野でのICT(情報通信技術)活用やそれに伴う教育方法の変化などについて、約800名の参加者が将来を見据えた活発な議論を交わしている。会期は8月6日までの3日間。

 冒頭の全体会では、CIECの妹尾堅一郎会長が「変革の教育、継続の教育」という大会テーマについて説明。教育におけるポイントを2つ挙げた。一つは「学習者の創造」。「学ぶことにワクワクし、学び続けることを楽しめる人材を育成しなければならない。学習と言っても、単なるお勉強ではなく、知識を得て、それをさらに展開することが必要だ」。もう一つのポイントは、「皆と同じことが言える、他人と違うことが言える、この2つを同時に育てなければならない」ということ。「皆と同じことしか言えない者を凡人、他人と違うことしか言えない者を変人と呼ぶ。その両方を言える健全なるミドルクラスを育成するのが我々教育者の使命である」とした。

 そして日本の教育については、「皆と同じことをあまりにも強調しすぎた日本の教育では、イノベーションはかなわない」としながらも、「では他人と違うことばかり言えばよいのかというとそうではない。伝統や文化など、継続しなければならないものもある」とした。つまり、「変革をする教育を一方に持ちながら、継続する教育を一方に持たなければならない。そのバランスは状況によって違うが、この点を我々はしっかりと押さえなければならない」というわけだ。これにより、「一人ひとりが自分を変革し、そして自分の中の個性を継続することにもつながる。まさに教育の核心はこういうところにある」と主張した。

 続く最初の基調講演に立ったのは、京都大学高等教育研究開発推進センターの飯吉透教授。教育分野における変革の一例として、「オープンエデュケーション」と呼ばれる動きについて解説した。

 オープンエデュケーションとは、インターネットを利用して教材や講義ビデオ、教育関連の技術などを公開・共有する取り組みのこと。米マサチューセッツ工科大学(MIT)では、2001年から「オープンコースウエア(OCW)」として講義ビデオなどの公開を始めており、これがオープンエデュケーションの草分けという。最近では、もともと投資銀行家だったサルマン・カーン氏が、個人で作成した学習用教材をインターネット上で公開するカーンアカデミーに注目が集まっている。今や3000もの講座を公開しており、世界中から何百万人もの学習者が閲覧しているWebサイトだ。「インターネットが出てきたことで、1人でこういうアカデミーが作れるようになったのはすごいことだ」(飯吉教授)。

 教育・研究用の機材を共有する取り組みもある。「iLabs」というプロジェクトでは、学生や研究者を対象に、高価な実験機材や施設をインターネットでつなぎ、世界中の誰もが共有できるようにしている。飯吉教授によると、「オープン・テクノロジー」「オープン・コンテンツ」「オープン・ナレッジ」の3つがオープンエデュケーションを構成する要素になる。

 こうしたオープンエデュケーションが、次世代の教育のどのような基盤になるのか。この点について飯吉教授は、「Eの10年、Oの10年、Cの10年」という3段階の進化の中で位置づけた。「Eの10年」とは、1990年代のeコマース、eビジネス、eラーニングなどがもてはやされた時代。「Oの10年」とは、オープンソース、オープンシステム、オープンアクセス、オープンエデュケーションなどが世界中で盛んになった2000年代のこと。そして2010年代の今盛り上がっているのが「C」だ。それはコラボレーション、コミュニティ、コモンズ、クラウドなどを意味し、これらがいかに教育の中で使われるべきかがポイントになるという。

 ただ、日本では少し事情が異なると飯吉教授は指摘する。「厳しいことを言うが、日本ではこのうちEもOも中途半端でおろそかにしてきたので、今、Cに飛び込んでいるが、おそらく長続きしないだろう。これをいかに定着させて、継続させられるかが非常に重大な問題だ」。そこで飯吉教授が提言するのが「Oの促進」。「Eのところはかなり遅れてしまっているのだが、何とかOを促進することで、Eも引っ張り起こして、さらにCへの橋渡しをする必要がある」という。

 飯吉教授は最後に、「我々人類を高めていくためには、最良のものをできるだけ多くの人々に普及させ、それによって皆がより良いものとともに成長することだ」という故スティーブ・ジョブズ氏の言葉を紹介。これはオープンエデュケーションの精神と合致するとして、「オープンエデュケーションを十分に活用して自らの教えと学びを最大限にして、より多くの人々に貢献してほしい」と参加者に呼び掛けた。