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 コンピュータ利用教育学会(CIEC)などが主催する「2012 PCカンファレンス」の初日である2012年8月4日午後は、「教育イノベーションとしてのゲーム:新しい教育哲学から実践までを考える」と題したシンポジウムが行われた。ゲームを「教育を根底から見直す一つの切り口として考える」(モデレータを担当した妹尾堅一郎CIEC会長)もので、研究者やビジネス関係者がパネリストとして登壇し、それぞれの観点から取り組みや課題を語った。

 ビジネスの実践例を紹介したのは、バンダイナムコゲームスの一木裕佳新規事業部ゼネラルマネージャー。同社は教科書出版会社と共同で、ゲームメソッドを使った小学校用教科書を開発した。「ゲームは長らく教育現場から“敵”と見なされてきた存在で、バッシングを受けると思っていた」(一木氏)ものの、学習を進める楽しさや達成感をゲームの世界観で描く手法が評価を受け、私立の小学校などで相次いで採用されたという。

 また電子黒板向けには、使いやすさを重視した教材を開発。「カラオケボックスで選曲するような感覚」(一木氏)で使える教材は、児童が自発的に電子黒板を用意するようになるほど人気を博し、採用した自治体は追加予算まで確保したという。

 立命館大学映像学部のサイトウ・アキヒロ教授は、ゲームの手法を他の分野でも応用するための研究テーマ「ゲームニクス理論」について紹介した。サイトウ氏は、ゲームの楽しさはマニュアル無しで直感的に使えることに加えて、ユーザーを夢中にさせる演出にあるとする。「ゲームはプログラムだから偶然や感性では動かない。緻密に計算されたロジカルな仕掛けがユーザーを夢中にさせる」(サイトウ氏)。

 現実空間にフィクションの世界を描くARG(代替現実ゲーム)による消費者行動分析を研究する慶應義塾大学経済学部の武山政直教授は、ARGの実践例を解説した。「消費者に共演感覚を与えることで、消費者は普段とは違う考えや感情を持つようになる」(武山氏)のがARGの効果で、自動車の広告や繁華街の動線作り、正しい生活習慣の定着などに効果を上げているという。

 東京大学情報学環の藤本徹特任助教は、ゲームのような構成で現実世界の行動を促す手法である「ゲーミフィケーション」について解説。「歩数計も、単に歩数を数えるものから、『歩くお遍路』のようなゲーム的要素を付加して楽しさを作ってきた」(藤本氏)ように、ゲーミフィケーションは商品価値の向上に役立てられている。中には、群衆がゲームのような進め方で政治家の経費を精査して不正を暴き出すなど、社会変革をもたらしたゲーミフィケーションの事例もあるという。

“ゲームっぽいもの”はことごとく失敗している

 こうしたゲームの手法の教育やビジネスへの応用は以前から進んでいるが、実際の取り組み方にはまだまだ問題があると各パネリストは強調した。立命館大学のサイトウ氏は「迷路の先に問題を置くような、ゲーム自体がストレスを与えるような構成では意味が無い。ゲームを作るのが専門でない人が作るとそうなりがち」と指摘。慶應大学の武山氏も「創造性を高めるのに有効なのは『ルールを壊す』こと。そこでゲームに通じた人たちのマインドセットが重要になる」とした。

 東京大学の藤本氏も「何でもかんでもゲームにすれば受けるわけではない。ニーズやテイストに合わせて作るのが大切で、そのためにはゲームクリエーターの引き出しを活用すべき」と指摘。バンダイナムコゲームスの一木氏も「ゲームではなく、“ゲームっぽいもの”を作るメーカーが多く、そうした中途半端なゲームはことごとく失敗している。ユーザーの支持を得られるゲームを作ることがいかに大変かを、まずは認識してほしい」と主張した。

 モデレータをつとめたCIECの妹尾氏は「『悪貨は良貨を駆逐する』ようなことになってしまってはいけない。ゲームの手法を応用した教材を作りたいなら、やはりゲームのプロと組むべきだろう」と締めくくった。