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 「2012 PCカンファレンス」2日目である2012年8月5日の分科会「モバイル端末」では、「iPad」などのタブレット端末の応用に関する研究も発表された。タブレット端末は、特に反復学習のシーンでの利用が先行して進んでいるが、今回の分科会ではグループ討論や形成的評価にタブレット端末を活用する研究や、既存のICT(情報通信技術)ベースの教育環境にタブレット端末を組み込む研究が発表され、教育分野でタブレット端末の用途が広がってきていることをうかがわせた。

 北陸学院大学短期大学部コミュニティ文化学科の辰島裕美氏は、キャリア教育でiPadを活用した事例を発表した。学生に企業を訪問させ、学生に何を期待しているのかをインタビューする。それを論文にまとめて3~5人のグループで討論し、情報を共有していくという授業だ。各学生が書いた論文をグループで共有するのにiPadを活用。論文をPDF化してiPadに移し、学生はそれを見ながら討論を進めた。論文をiPad上に展開することで、コピーや配布の手間を省くとともに、片手で持ちながら討論することが可能になった。

 実践の結果として、辰島氏は「iPad導入の支障は、学生ではなく大学の方」と指摘した。例えば大学のネットワークへの接続。今回の端末は企業からの貸与品だったため、セキュリティポリシー上許可がおりず、討論しながらWebを参照するような使い方ができなかったという。「大学がiPadを活用できる環境を作るには、組織力が必要になる」と辰島氏は強調した。

 広島大学の三浦利仁氏は、授業中の評価にAndroid端末を活用した研究を発表した。授業を通して生徒に定着させたい能力が培われているかを、授業中に評価する形成的評価に応用するもの。中学の技術家庭の時間での、のこぎりの使い方の評価で実践した。生徒ののこぎりの使い方を見ながら、教師の説明をどれだけ理解しているか、次にどういう指導をすべきかを、Android端末に入力してデータベース化する。タブレット端末なので、生徒を指導しながら片手で持って入力でき、時系列で生徒の能力の変化を確認することも容易になった。今回の研究では10.1型ディスプレイの端末を使用したが「7型クラスやスマートフォンでも実用できそう」(三浦氏)とした。

Moodleのコンテンツをタブレットやスマホで使う

 一方、パソコンをベースとした学校の教育環境を、タブレット端末やスマートフォンにも拡張する研究を発表したのが、三重県立津商業高等学校の藤田裕之氏と広島国際大学の越智徹氏だ。

 津商業高校の藤田氏は、国語の授業でAndroid端末を使った実践例を報告した。同校は、既にパソコン室のパソコンとWebベースの教材を作るシステムである「Moodle」を使って、課題文に対する意見交換や創作指導などの協働学習を実践しているが、「パソコン室ではお互いの顔が見えない。タブレット端末を使えば普通教室でもできると考えた」(藤田氏)。Moodleに協働学習用のアプリケーションを置き、タブレット端末から無線LAN経由で使用することで、パソコン室での協働学習と同じことが普通教室で可能になった。しかし「タブレット端末のソフトウエアキーボードでは意見の入力が煩わしいという声も多かった」(藤田氏)という。

 広島国際大学の越智氏は、Moodleによる反復学習をタブレット端末やスマートフォンからも利用可能にする研究を発表。資格取得の教育には反復学習が有効とされており、そうした学習コンテンツはMoodleで既に展開されていることも多い。しかしタブレット端末やスマートフォンからは、パソコン用に作られた画面で使うことになり、「特に多肢選択問題のラジオボタンなどは使いにくい」(越智氏)。

 そこで、タブレットやスマートフォンに最適化したユーザーインタフェースを作成。さらに学習履歴を一時的に端末に残して、ネット接続時にMoodleのデータベースに書き込む手法を開発し、オフライン時でも利用可能にした。「スマートフォンは、ちょっとした空き時間に場所を問わず問題に取り組める。学習環境に取り込めば、パソコンと合わせて連続的な学習が可能になる」(越智氏)という。

 従来型携帯電話も含めた学習環境作りの研究を発表したのは、信州大学高等教育研究センターの矢部正之氏。学生の受動的な学習スタイルを変革するには双方向性を確保する必要があるが、「キャンパスが分散している信州大では、遠隔授業を考慮しなくてはならない」(矢部氏)。スマートフォンではない、従来型携帯電話を持っている学生も多いため、従来型携帯電話にも対応したASP(Application Service Provider)の「C-Learning」を導入。授業時間中の問題提示や議論、個別対応などに活用した。矢部氏は「学生はケータイだと自由に意見を書いてくれるため、『話させる効果』があった」とした。

 東京学芸大学の市村将人氏は、初等教育でタブレット端末を本格導入した場合の効果について、理論面で検討した結果を発表した。タブレット端末は、採点作業の待ち時間短縮や資料配付の作業軽減で、学習の効率性が上がったことは実証済みだが、「新しい知識を獲得する段階に効果がないかを検討した」(市村氏)。だが具体的な変化を起こすことは難しいという結論に至ったという。