大学ICT推進協議会(AXIES)が2012年12月17日から19日まで開催した2012年度年次大会では、大学内で使用するクライアント端末の整備に関する発表もあった。その中から日本大学と大阪大学の例を紹介する。
日本大学文理学部情報科学研究所/コンピュータセンターの小林貴之准教授と毒島雄二専任講師は「VDI環境の可能性に関する共同実験・検証」と題した2つの発表を行った。VDIはVirtual Desktop Infrastructureの略。クライアント端末自身でデスクトップ環境を動かすのではなく、複数の端末のデスクトップ環境をサーバー側でまとめて管理して、端末はその画面を表示する。機器やデータを集約してメンテナンスを一元化できる点などがメリットだ。
両氏は、パソコンを使った学習環境でVDIがどれだけ使えるかを検証した。検証用のサーバーや既に稼働している教育システム用のサーバーにクライアント端末を接続。仮想環境を同時に起動するなどして、CPUやネットワーク、ストレージの負荷を調査した。
検証用のサーバーは、米シトリックス・システムズの仮想化ソリューション「XenDesktop」用がXeon E5506、メモリー12GB、HDD 146GBのシステム。米ヴイエムウェアの「VMware View」用がXeon E5675×2、メモリー192GB、HDD 450GB×4のシステム。VDI端末は、組み込み向けCPUを搭載した製品を使った。仮想環境のOSはWindow 7とWindows XP(メモリーはいずれも2GB)。「端末への接続は100Mbpsだったがネットワークへの負荷はそれほど高くない。検証用サーバーではストレージへのアクセスの待ち時間が長く、遅さを感じた」(小林准教授)。
毒島氏は、専用のクライアント端末と、学生が自らの端末を持ち込んで利用するBYOD(Bring Your Own Device)を想定した機器で、映像再生や音声の再生、録音が正しくできるかを詳細にレポートした。映像は多くの端末で問題なく再生できるものの、音声の再生と録音は対応がばらばら。通常のヘッドセットからUSB接続のヘッドセットに替えたらノイズが減る、クライアントのファームウエアを更新したら対応が変わるなど、利用者が細かくテストする必要があるとした。Windowsではない端末をBYODで使うには課題があるものの、使い方次第ではVDIは情報基盤の改善に効果がある。大規模な運用ではライセンスのコストが大きな問題になる恐れがあるとまとめた。
大阪大学サイバーメディアセンターで講師を努める中澤篤志氏は「大阪大学の情報教育システムに関する現状と展望」とテーマで発表した。教育用と演算用を兼ねる端末を整備するにあたり、「ExpEther」対応のクライアント端末を導入した報告だ。ExpEtherはPCI Expressの信号をEthernetで伝送する技術。ExpEtherを使うと、ディスプレイやインタフェースと本体を別の場所に設置できる。
教育用端末を演算用にも使うのは、汎用コンピューター用の予算で導入したため。教育用として学生が利用していないときは、クラスター型の汎用演算に使えるシステム構成にする必要があった。同じように導入したこれまでの端末は、一般的なパソコンとして教室に設置しており、演算用に使うと発熱が問題になる(部屋の空調がそうした利用を想定していない)ことがあったという。
新たに導入したのは、ExpEther対応のNEC製クライアント端末。ディスプレイ出力とインタフェース部分は教室に、本体はサーバールームに設置してEthernetで接続する。教室に設置した部分は省スペース、省電力で空調は問題にならない。性能は通常のパソコンと同等である点がVDIと比べたときのメリットだとした。
さらに、学生が持ち込んだ端末を教育用にするBYODにより、据え置き端末を置き換える構想もあるという。学生の個人パソコン所有率が8割を超えているというアンケート結果を受けての構想で、学生のパソコン購入コストやサポートコスト、端末を持ってくることそのものの負担感などの課題があるものの、多様なOSに対応しやすくなる、条件が合えばさまざまな場所で授業ができるなどのメリットもあるとした。